「生活保護制度」不公平感が無く、自立を促す制度に抜本的改革を! 100の行動38 厚生労働4
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初稿執筆日:2013年10月4日
第二稿執筆日:2015年10月13日
生活保護に使われる国費は2014年で3.8兆円までふくれあがっている。このうち、約半分が医療扶助だ。今の制度では、生活保護の対象者は、医療サービスを無償で受けることができる。さらに、税や社会保険料の負担も無く、NHKの受信料も無料になるなど手厚い保護がある。しかも生活保護支給費は最低賃金や年金よりも高い。このため、生活保護にかかる予算が膨れ上がっているのだ。私たちがセーフティーネットのある社会に暮らしていることは、素晴らしいことだ。人生において、いつ何が起こるかは誰にも分からない。病気や怪我、仕事での失敗で収入が無くなってしまったような時に、最低限のセーフティーネットがあることは、この国の財産だろう。「100の行動」における社会保障改革の議論においても、最初に設定した大原則として、(1)医療や年金、介護といった保険制度は社会保険の範囲内で持続可能な制度を目指すとともに、(2)保険制度から漏れた人を救済するセーフティーネットとして生活保護制度は税金で支える、とした。
しかし、セーフティーネットは、トランポリンでなければならない。対象者がそのネット(網)にいる方が得になってしまい、安住してそのまま上がってこないのは問題だ。セーフティーネットに救われた人は、短期的に恩恵を受けながらも、トランポリンのようにもう一度上がってくるような制度にしなければならない。
そのための仕組みが、今の生活保護制度には欠落しているのではないか。対象者が制度に安住せず、制度から脱却する制度設計やインセンティブを組み入れることが必要だ。
生活保護支給は基礎年金以下に切り下げるかベーシックインカム制度に切り替えよ!
生活保護受給者は、基本的に不況になれば増えるわけだが、バブル崩壊以降は一貫して増え続け、リーマンショック後、急激に増加、2013年で216万人に達し、戦後復興期を抜いて過去最高を更新した。景気が回復すれば生活保護受給者数は減少すると言われていたが、景気回復局面にあるここ数年も受給者数は減ることなく、2015年には217万人を超えて再び過去最多を更新している。
近年の生活保護の特徴は、高齢者世帯、母子世帯、傷病・疾病世帯に加えて、その他世帯の比率が増えていることだ。つまり、高齢でも、母子家庭でも傷病でもない、稼働年齢層と考えられる世帯の生活保護が増えているということだ。10年前と比べるとその数は、72,400世帯(8.3%)から、290,000世帯(18.5%)にまで増えている。
社会のセーフティーネットとしての生活保護制度は必要だが、生活保護支給費が最低賃金や年金よりも高く、税・社会保険料の負担も無く、医療費もかからない等、この制度に脱却のディスインセンティブが働いていることが問題だ。
したがって、少なくとも、まじめに国民年金を支払い続けてきた人々が手にできる基礎年金以下にまで、生活保護支給費は段階的に切り下げるか、ベーシックインカム制度を導入して、働ける人には働くことを促す必要がある。ベーシックインカム制度は、健康で文化的な最低限度の生活を送るための収入をすべての国民に保障するという発想だ。年金、生活保護、失業保険や各種助成制度などの複雑で煩雑なすべての社会福祉制度を一元化してシンプルな制度となり、社会福祉に関わる行政を劇的にスリム化することができる。さらに、支給に関わる不正や役所の裁量のない公平な制度にすることも可能になってくる。不公平感がなく、社会保障に関わる行政によるムダや受給の不正も生まない、そして、働けば働くだけ収入も増えるという、優れた制度だ。
高齢者の生活保護は、全て年金に切り替えよ!
高齢者の中でも、生活保護を受けている世帯と、基礎年金のみで生活している世帯とが混在する。生活保護を受けている方が得な状態は、大きな不公平感を生みだしている。
現在、東京で4人家族の生活保護世帯への支給額は住宅手当等も含めて月額20万円を超える。高齢者の単身世帯でも月額8万円を超える。しかも、医療費が無償で、税負担免除、NHKの受信料等の免除もある。一方で、基礎年金の支給額は、月額6万5000円程度だ。
繰り返しになるが、少なくとも、まじめに国民年金を支払い続けてきた人々が手にできる基礎年金以下にまで、段階的に生活保護支給費は切り下げることが必要だ。そのうえで、年金受給年齢に達した人々は、生活保護から年金へと切り替える、或いは、ベーシックインカム制度を導入し、一本化するべきであろう。いずれにせよ、まじめに働いて、年金を納めてきた人が損をすると言う不公平な現状を早急に改革しなければならない。
生活保護受給者の医療費は3割負担とせよ!
生活保護に使われる国費は2014年で3.8兆円で、このうち、約半分が医療扶助であることは冒頭で述べた。生活保護の対象者は、医療サービスを無償で受けることができ、医者にかかった分だけ医療扶助をもらえるようになっている。誰でもお金がかからないのであれば、できる限り医療サービスを受け、薬をもらおうとするのは当然だろう。実際に、生活保護受給者の約8割が医療扶助を受けている。診療種別で見ると、入院が59%、入院外が37%、歯科が4%だ。
生活保護受給者が医療サービスを無償で受けられる制度となっているために、当事者には医療費抑制のインセンティブが働かず、国費による医療費負担がふくれあがる構造になっているのが今の制度だ。生活保護を受けている者を他の一般の国民と区別する必然性はない。医療に関しては、一般と同じ3割の自己負担を導入すべきだ。
就労を奨励し、働くインセンティブを付与せよ!
生活保護の受給者のうち、約半分は60歳以上の高齢者だが、近年、稼働年齢層の「その他世帯」による生活保護が、10年前と比べて72,400世帯(8.3%)から、290,000世帯(18.5%)にまで増えていることは既に述べた。
今の国家財政を考えると、健康な勤労世代の生活保護受給者は当然として、高齢者世帯でも働ける者には働いてもらう様に奨励しなければならない。現在も政府では生活保護受給者に対する就労促進をハローワークと福祉事務所の連携等で行っているが、生活保護世帯162万世帯(2015年8月時点、過去最高)のうち、就労者のいる世帯は約12%に過ぎない。
したがって、病気や高齢といった理由で働くことができない者以外には、基本的に生活保護支給の条件として就労を奨励するとともに、得られた収入を生活保護費に上乗せして取得できる仕組みにして、働くインセンティブを与えることも必要だろう。すべての収入が生活保護費に上乗せされるのでは制度に支障を来すから、得られた収入の半分を上乗せする方式にする。つまり、例えば単身世帯で生活保護費を6万円とすると、就労で6万円稼げば6+3で9万円、10万円稼げば6+5で11万円、12万円稼ぐことができる者は生活保護脱却となる、分かりやすい制度にしてはどうか。
現在の制度にも勤労控除は存在し、最低生活費に加えて、働いた収入に応じて上がる勤労控除分が追加の収入になる仕組みだが、控除のカーブが緩やかすぎて、働くモチベーションにはなっていないのではないか。まったく働かなくても、単身世帯で14万円弱の最低生活費が支給され、頑張って働いて生活保護脱却ギリギリの約17万円の収入を得られた者は、それに約3万円の勤労控除分を加えて合計約17万円の支給となる。つまり、働いても最高で約3万円程度しか支給額が増えない。これでは働くインセンティブにはなりにくいだろう。
現在の制度は、そもそもの最低生活費の設定が高すぎるので、その算定は基礎年金以下にすることに加えて、就労を義務化し、得られた収入の半分を上乗せして取得できる仕組みにする必要があろう。就労のインセンティブに関しても、ベーシックインカム制度を導入することによる解決が最もシンプルだ。ベーシックインカムは最低限の生活保障であり、働いて稼げばそれだけ使える金が増え、働かなければ使える金が減るという構造ができるからだ。
支給年限の上限を設定するかベーシックインカム制度への移行を検討せよ!
生活保護制度の問題点は、一旦生活保護を受けると、受給が長期化し、制度から脱却しにくいことにある。これまでも述べてきたとおり、生活保護のほうが年金や最低賃金よりも高額であり、医療費が無償、NHK受信料や住民税も免除されるなどの特典があるようでは、その恩恵を手放したくないという心理が働く。したがって、生活保護支給費の切り下げや、医療費の3割負担、就労へのインセンティブなどが必要だが、加えて、生活保護の支給の年限を設けてはどうか(例えば、3年としてはどうであろうか)。
病気ややむを得ない事由で、期間を過ぎても更新せざるを得ない場合もあるだろうが、生活保護の受給者に、基本的にはセーフティーネットを使えるのは3年に限られるという意識を浸透させる。期間限定のセーフティーネットだから、その間に自立のための方策は自ら探し、実現に向けて努力する必要が出てくる。自立の方策が実現しなければ3年の期間終了後に再度更新せざるを得ないが、その場合は、支給額が減額されるといった形にし、脱却へのインセンティブをつける制度にしてはどうであろうか。もちろん、ベーシックインカム制度への移行によって不公平感が無く、自立を促す制度に改革することもできよう。
政府では、2014年に生活保護法を改正し、
・就労による自立の促進
保護期間中に働いて得た賃金の一部を積み立てる「就労自立給付金」をつくり、保護から抜けたときに一括で支給する(単身世帯で10万円、それ以外は15万円が上限。)
・医療扶助の適正化
受給者に対し後発医薬品(ジェネリック)の使用を促す。
・不正・不適正受給対策の強化等
福祉事務所の調査の権限を広げるほか、不正受給の罰金額の上限を30万円から100万円に引き上げる。家族の扶養義務も強化。
などの制度改正が行われた。また、2015年度予算においては、生活保護の住宅扶助と冬季加算を、それぞれ30億円削減されることになった。住宅扶助削減については、2013年度実績で5384億円(国費分)、今後2015年7月から2017年度までの3年間、190億円削減される方針が示されており、約3.5%減されることになる。(冬季加算の方は、2014年度実績推計値356億円(国費分)に対して、30億円の減額は8.5%減)
制度改正に関しても予算削減にしても小さな一歩にすぎず、生活保護費の国庫負担は未だに減少していない。
いずれにせよ、現状の国家財政の危機的状況を考えると、年間3.8兆円もの血税を生活保護受給者に支給すべきかどうかは、大いに議論すべきであろう。
かつて二宮尊徳翁は、次の通り、述べていた。
「金銭を下付したり、税を免除する方法では、この困窮を救えないでしょう。まことに救済する秘訣は、彼らに与える金銭的援助をことごとく断ち切る事です。かような援助は、貧欲と怠け癖を引き起こし、しばしば人々の間に争いを起こすもとです。荒地は荒地自身のもつ資力によって開発されなければならず、貧困は自力で立ち直らせなくてはなりません」(『代表的日本人』より)
共感する部分が多い。生活保護制度は、「怠け癖」を引き起こし、受けている人間と受けていない人間との不公平感を生みだし、「人々の間に争いを起こし」ている。人々が汗水かいて働いた納めた血税をもとに、日々の施しを受けていることに感謝の念を持ち、一刻も早く生活保護受給の現状から脱却しようと努力するのが、あるべき姿であろう。
受給額を減らされたことに集団訴訟を起こしている現況では、納税者から共感を得ることは無いであろう。現代に生きる僕らは、二宮尊徳翁の精神から学ぶことが多い。
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