雇用のダイバーシティーを拡げ、成長につなげよ! 100の行動43 厚生労働9
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初稿執筆日:2013年11月8日
第二稿執筆日:10月28日
経済成長は基本的に人口増加と連動する。日本の高度成長も、近年の新興国の経済成長も人口ボーナスが成長の大きな要因だ。一方で、今の日本は少子高齢化社会に突入している。その人口減少社会である今の日本が経済成長を実現するには、何が必要か。もちろん、長期的には100の行動【厚生労働5】で提言したような少子化対策が必要だが、今いる人口の中でいかに「働く人を増やすか」という視点が必要になってくる。
データを見れば明確だ。日本の就業率は、全体(20~64歳)で74.6%、女性の就業率が25~44歳で66.5%、高齢者の就業率が60~64歳で57.1%、65歳以上で21.3%となっている。
65歳以下の現役世代全体では1/4の人が働いておらず、特に女性と高齢者の活用が進んでいないという現状が見て取れる。今いる人口の中で働く人を増やすには、女性、高齢者、そして上記のデータの外にいる外国人がキーワードになる。
人口減少社会においていかに働く人間の数を増やし、質を上げていくか。後者に関しては大学改革や教育改革などを文部科学編で提言するが、数の確保に関しては、様々な働き方を政策として積極的に認めることがスタートラインだ。
多様な働き方を積極的に認める労働法制を!
2012年の労働者派遣法の改正によって日雇い(30日以内)の派遣労働が禁止された。しかし、この規制は、短期間だけ働きたいという労働者の労働の機会を奪っている。政府の規制改革会議では見直しの議論が行われたが、是非とも実現したい課題だ。
今、活発になってきている働き方に、クラウド・ソーシングによるものがある。インターネットを使ってオンライン上で不特定多数の人に業務を委託する仕事の仕方で、2014年の市場規模は約400億円、2018年には約2000億円を到達するという予測もある。クラウド・ソーシングでは、主婦の方でも障がい者の方でも、また、遠隔地に住んでいる方でも、インターネットを使って好きな時間に好きな分だけ働く事ができることが利点だ。
クラウド・ソーシングに対する直接の労働規制は今はないが、こういった新しい形態の働き方に対して、政府は、日雇い派遣に規制をかぶせたような方法論ではなく、早い段階から積極的・肯定的にとらえて、多様な働き方を促進させる制度を構築すべきだ。
現在の労働規制は、100の行動【厚生労働8】で述べたように、労働時間法制にしても契約社員や派遣社員への規制にしても、多様な働き方を制限する方向に向いている。労働者派遣法が、「派遣社員が正社員の仕事を奪わないよう(常用代替の防止)」に派遣社員の働き方や働く期間を制限しているのがその最たるものだ。
そうではなく、情報化社会の進展に伴って今後出てくるであろう多様な働き方を積極的に促進する労働法制としなければ、成長にはつながらない。日雇い労働、クラウド・ソーシング、派遣社員、契約社員等、多様で自由な働き方を認め、促進する法制をできる限り簡素で分かりやすい形で、政府は用意すべきだ。
女性の就業機会を増やし、指導的地位で働く女性を30%まで高めよ!
働き手を増やすための第2の方策は女性だ。今の政府は、成長戦略のカギは女性の活用だという考え方を取っており、評価できる。
日本では、子どもの出産を機に約6割の女性が離職をしているのが現状だ。このため、女性の就業率が子育て期にあたる30代で顕著に低下する「M字カーブ」を描いている。しかし、女性の就業希望者は50歳未満で300万人を超えており、潜在的な労働力として大きな可能性を持っている。また、企業で管理職以上の女性の割合は、現在11.9%で、昔に比べれば徐々に割合は上がって来ているが、欧米に比べると依然として低いと言えよう。政府は指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度まで向上させる目標を掲げており、是非とも実現したい目標だ。
それでは女性の就業を高め、かつ、管理職や役員といった指導的地位につく女性の割合を上げるためにいかなる方策が必要か。
まずは、政府の役割だ。
女性が出産を機に離職せざるを得ない主要な理由は、子育てと就業の両立が困難であることが挙げられている。これに関しては、政府の待機児童解消加速化政策などを着実に進め、男性の意識を改め、保育ニーズに応える体制を作ることが有効だろう。
また、今の労働市場においては、女性が一度離職すると、同じキャリアに戻るのが難しいという現状もある。100の行動【厚生労働8】で提言したような労働規制の緩和により労働市場を流動化させて、女性の再雇用も活性化できるはずだ。また、既述のクラウド・ソーシングなどの多様な働き方を積極的に認める労働法制の整備も、様々な働き方で女性の労働力を社会が活用することに資する。
政府としては、女性活用企業の「見える化」も進めるべきだ。全上場企業を対象に調査を行い、女性の管理職への登用状況や就業割合を調査し、公表する。育児休暇の取得状況や、子育て等への支援状況等を調査・公表することで、ベストプラクティスのシェアと企業の意識改革が期待できる。最近の報道によれば政府はそういった女性活用の見える化を進める方針であり、是非とも進めてもらいたい。
さらに政府は、一般企業に先駆けて、霞ヶ関の公務員、地方自治体の公務員、独立行政法人の職員等で率先して女性の採用促進と子育てとの両立支援、そして管理職以上への女性登用比率を30%以上にすることで、民間に範を示すべきである。
次に、企業の努力だ。
当然ながら、女性の就業における「M字カーブ問題」の解消や管理職以上への女性の登用促進は、個別の企業の取り組みが無くては進まない。仕事と子育ての両立を支援し、女性労働力の活用、人材育成を行うことは、長期的には企業価値を高めることにつながる施策であり、政府による支援政策も活用しながら、育児休業や短時間勤務を取得しやすい環境を各企業が整備すべきだ。
最後に、男性の努力だ。
当然ながら子育ては女性だけの問題ではない。「イクメン」という言葉もだいぶ定着してきた感がある。育児休業や短時間労働などを男性が積極的に取得し、家庭における子育てに参画する姿勢が重要であろう。
最大の潜在労働力である女性の活用と少子化対策の両得を狙い、配偶者控除を撤廃してN分N乗方式を導入せよ!
実はフランスでは、女性の社会進出を促し、さらに子供を多く持つことにもインセンティブを与える一石二鳥の所得税制を採用している。このフランスの成功事例を取り入れ、女性の社会進出を妨げている配偶者控除を廃止するかわりに、新たな税制として「N分N乗方式」を採用することを提言したい。
フランスの所得税制は、日本と同様、所得が多い人ほど高い税率がかけられる累進課税方式だ。しかし、課税単位については、日本では、同じ世帯であっても個人個人で各税額を算出して税金を納める個人単位課税である一方、フランスでは、世帯全員の収入額を一旦合計したうえで、その世帯の人数で収入額を割った金額に税率をかけ、そこで算出された税額に家族の人数をかけて最終的な納税額を計算する制度になっている。これがN分N乗方式だ。
つまり、夫婦二人の世帯の場合、夫婦の所得を合算し、2分したうえで累進税率を適用して出した数値を、2倍して納税額を算出する方法である。さらに子供がいる場合、子供が多ければ納税額が減少することになる(N分N乗方式のNは家族数)。子供の多い家庭ほど税金が安くすむことになるこの税制を導入したフランスでは、出生率の増加が認められている。
この制度を日本でも採用すれば、最大の潜在労働力である女性の活用促進に加えて、課税ベースの拡大や少子化対策にも効果が期待できるだろう。
高齢者を活用せよ!
高齢者の労働力としての潜在能力は極めて大きい。
今や日本人の平均寿命は、男性79.94歳、女性86.41歳。65歳時の平均余命も、男性 18.69 年、女性 23.66 年まで伸びている。さらに、内閣府の調査によると、日本の高齢者の就業意欲は諸外国に比べて高く、65歳 以上まで働きたいと回答した人が約9割、70歳以上まで働きたいと回答した人が約7割にも達している。
これほどの高齢化社会である日本で高齢者を活用しない手はない。高齢者は弱者ではなく、むしろ経験と能力を持った、社会にとって貴重な労働力だ。
高齢者の労働力を社会で活用するための第1の方策は70歳定年制の導入だ。
世界に目を向ければ、米国の「雇用における年齢差別禁止法」やEUの「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指令」など、先進国では年齢による雇用差別が禁止されているのが一般的だが、日本の場合は、正社員の身分が極めて手厚く保護されており、企業に解雇権がないために、企業にとっては正社員を合法的に退職させるほとんど唯一の制度として定年制が定着している。現状では、企業に解雇権もなく、年功給が存在するために、高齢者になればなるほど割高な労働力になってしまっていることが、定年制が合理的である理由となっているわけだが、当然ながら、65歳を過ぎても優秀な人材は山ほどいる。
長期的には、100の行動【厚生労働8】で提言したような労働規制の自由化(解雇自由、年功給の廃止)を行えば、定年制が合理的な理由は徐々に無くなっていくと考えられるが、まずは現状で定年制が合理的である日本では、高齢者の労働力を活用するために、70歳定年制を導入すべきだ。
次に、高齢者による起業支援だ。
今、定年前後に起業するシニア起業家が増えている。日本政策金融公庫の調査で、起業全体に占める60歳以上の人の起業の割合は2001年度に3.9%だったのが、2011年度には6.6%に増加している。経済産業省では日本政策金融公庫を通して、55歳以上の起業家を対象に低利融資制度「シニア起業家資金」という制度を用意しているが、より積極的に高齢者による起業を支援すべきだ。
さらに、特に高齢者のホワイトカラー業務の仕事のマッチングが現状では不足しており、ホワイトカラーとして働いていた人の能力や経験を活かす就業機会のマッチング機能も強化すべきだろう。
日本社会の少子高齢化はしばらく続く。そうであれば若い労働力の減少傾向に歯止めはかからない。高齢者の労働力の活用は国を挙げて取り組むべき課題であり、国だけでなく、各企業、地方自治体でも重点的に検討すべきだ。
優秀な外国人の受け入れ促進のため思い切った優遇措置を!
国内での働き手を増やすための最後の方策が、外国人だ。特に、優秀な、高い能力を持った外国人が、シンガポールや香港ではなく、日本で働くことを選択するように促すための優遇制度が重要だ。
2012年から、政府は高度人材に対するポイント制優遇制度をスタートしている。これは、経済成長や新たな需要と雇用の創造に資することが期待される高度な能力や資質を有する外国人の受入れを促進するための出入国管理上の優遇措置制度だ。外国人の学歴、職歴、年収、研究実績などの項目ごとにポイントを設定し、合計が70点以上の人を対象に、在留資格の拡大、永住許可要件の緩和、配偶者の就労許可、親の帯同許可といった優遇措置が付与される。
この制度をさらに拡充する方向で政府も検討しているが、加えて、100の行動【金融2】で提言したように、一定の業に携わる高度な能力を持った外国人の所得税を一定期間「半分」にするといった思い切った優遇策を講じるべきではないか。
海外の投資家やアナリストがシンガポールや香港でなく東京に来る時に大きな弊害となるのが、所得税の高さだ。都市環境やビジネス環境、さらにはライフスタイルにおいて東京は世界でも高いランクだが、ネックになっているのが税金の高さだ(シンガポールの所得税は18%に対し、日本は55%となる)。徴税の運用面や公平性の問題点もあろうが、優秀な外国人の受け入れ促進のためには、分かりやすく、思い切った優遇策が必要だ。
日本では、働くということは、生きがいであり、職場というコミュニティの一部になることであり、自己実現の方法の一つでもあると言える。この「行動」で述べてきたように、多様な働き方を推奨し、女性、高齢者、さらには外国人をもっと登用することにより、雇用のダイバーシティーを拡げることができよう。この行動では言及してこなかったが、他にも障がい者の雇用の促進ということも提唱したい。
これらの結果、数多くの方々に働く機会を与え、人々を心身ともに豊かにして、結果的に経済の成長につなげることができよう。
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