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Jan 24 / 2014
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科学技術イノベーション 国家戦略と産官学連携による好循環を産み出せ!100の行動54 文部科学8

初稿執筆日:2014年1月24日
第二稿執筆日:2016年2月10日

 政府は2013年6月に「科学技術イノベーション総合戦略」を策定した。科学技術による経済社会の発展を重視し、重点分野を国が定め、日本を世界で最もイノベーションに適した国にするという。大いに進めて欲しい政策だ。 

イノベーションの重要性に関しては「100の行動」でも何度も取り上げてきた。日本では、イノベーションが長きに渡って「技術革新」と訳されてきた。一説によると、1958年の経済白書による紹介の際に「技術革新」と記載されたものが定着したとのことだ。しかし、以前にも述べたように、イノベーションは「技術革新」だけにはとどまらない。ビジネスモデル、文化、社会、いかなる分野にもあり得るものだ。シュンペーターによれば、イノベーションは、物事の「新結合」や「新しい捉え方」「新しい活用法」を創造することにより、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことだ。

 その意味で、イノベーションの源泉は「人」である。戦後日本は、数々の偉大なイノベーターたちによって、トヨタの「カイゼン」のようなプロセスイノベーションや、トランジスタラジオ、ヘッドフォンステレオの小型軽量化、自動車や電化製品の省エネ化などのプロダクトイノベーションなどが次々に創出され、高度経済成長を牽引し、石油危機のようなピンチをチャンスに変えてきた。

 したがって、日本をイノベーション大国にするには、イノベーションの基礎となるイノベーター人材、すなわち、経営者人材、理工系人材、プログラミング人材、さらには技能職等の幅広い多様性が高い人材育成を、長期的視野に立って進めることが必要だというのが「100の行動52」で提言したことであった。

 しかし、莫大な研究開発費用と長期的・戦略的な視点が必要な「科学技術」に関して言えば、イノベーションを引き起こすために国の役割は大きいと言えよう。よく知られているように、アメリカで起こったインターネットやGPSなどのイノベーションは、すべて政府による長期的・戦略的な視点によるハイリスク・ハイリターンプロジェクトの成果であったわけだ。

 資源のない島国である日本は、これまでもずっと科学技術立国を標榜してきた。30~50年後の未来の日本の経済・社会が世界のトップクラスであり続けられるよう、国が科学技術立国の戦略をしっかりと持ち、イノベーションが起こるよう政策を強力に押し進めていくことは必要不可欠だ。

「選択と集中」で科学技術戦略を明確にせよ!

 科学技術によるイノベーション創出のためには、次に述べる循環が必要不可欠だ。

(1)国家による長期的・戦略的な研究開発により、基礎となる先端技術を生みださせ、
(2)産官学連携を通じて企業の商品・サービス開発に活用され、社会を変え、成長を促す価値を産み出す。

 それにはまず、国家による明確な戦略が必要だ。アメリカにおける科学技術のイノベーションの実例を見てみよう。インターネットやGPSなどは、社会に新しい価値をもたらし、社会の在り方そのものを変えたといっても誰も異論は無いだろう。これらはいずれもDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)による長期的・戦略的な研究開発プロジェクトが民間によって事業化されたものだ。

 インターネットの原型は、DARPA の前身である ARPA(Advanced Research Projects Agency)が1966年に開始したコンピュータネットワークの研究プロジェクト「ARPANET」だった。そこで培われた技術はその後、研究機関を結ぶネットワークへと発展し、1990年頃から商用利用されるようになり、現在のインターネットが形成されていった。

 GPSも、1973年に開発計画が国防総省から承認され、DARPAで開発計画が開始されたものだ。それが、1990年代に民生利用への開放が進み、カーナビゲーションや携帯電話、航空機や船舶の航行などにも利用されるに至っている。

 アメリカの例をみると、国の役割は、長期的な視点に立って研究開発の旗を立て、ロードマップを描き、継続性を持って研究開発投資を続けることだ。それを民間が事業化し、社会を変え、成長を促す価値を産み出すイノベーションにつながるのだ。

 冒頭で述べたように日本政府は2013年6月に「科学技術イノベーション総合戦略」を策定している。ここで重点分野に挙げられたのは、

 (1)クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現
 (2)国際社会の先駆けとなる健康長寿社会の実現
 (3)世界に先駆けた次世代インフラの整備
 (4)地域資源を「強み」とした地域の再生
 (5)東日本大震災からの早期の復興再生

であった。これらの重点分野が、すべて政策目標として重要であることに異論は挟まないが、国家の長期的な視点に立った科学技術戦略の政策目標として合理性があるのかは疑問だ。政府による科学技術イノベーション戦略が、単なる各省庁の予算分捕り競争の理屈付けに陥ってしまっては元も子もない。

 したがって、政府はより明確に的を絞った科学技術投資戦略を描くべきだ。震災復興が重要な政策目標であることに異論はない。しかし、国家による科学技術戦略は、もともと資源もなく、アメリカに比べて予算も限られる日本が、それらを投入する際に「選択と集中」を行うために立てるものだ。

 「戦略」とは目標を決めたら、それ以外のものは「略する」「捨てる」ことだ。すべてを羅列するのは戦略ではない。

 政府の「科学技術イノベーション総合戦略」は一度描いたらそれで終わりというものではないだろう。今後政府は専門家の意見を取り入れつつ、「選択と集中」による明確な戦略を策定すべきだ。

「科学技術イノベーション総合戦略」は、総合科学技術・イノベーション会議における議論のもと、毎年改訂が行われている。2014年の戦略では、政策課題を解決するための3つの分野横断技術「ICT」「ナノテクノロジー」「環境技術」が、翌2015年では、「大変革時代における未来の産業創造・社会変革に向けた挑戦」、「地方創生に資する科学技術イノベーションの推進」、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の機会を活用した科学技術イノベーションの推進」の3つの政策分野が重点的に掲げられている。それらを受けて、2016年1月には、第5期科学技術基本計画(平成28~平成32年度)が閣議決定された。

 第5期基本計画では、ICTの進化等により、社会・経済の構造が日々大きく変化する「大変革時代」が到来しているとの現状認識のもと、
(1)持続的な成長と地域社会の自律的発展
(2)国および国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現
(3)地球規模課題への対応と世界の発展への貢献
(4)知の資産の持続的創出

の4つの目指すべき国の姿を掲げ、その実現に向け、以下の4本の柱が掲げられている。
(1)未来の産業創造と社会変革
(2)経済・社会的な課題への対応
(3)基盤的な力の強化
(4)人材、知、資金の好循環システムの構築

 重要なのは、こうした国の戦略を政府、学界、産業界が共有し、好循環を生み出すことだ。そのためには、より明確で的を絞った分かりやすい戦略が必要となろう。引き続き政府の努力を期待したい。

総合科学技術会議の司令塔機能強化と、防衛大臣の参画を!

 政府の「科学技術イノベーション総合戦略」では、科学技術イノベーション推進のため、総合科学技術会議の司令塔機能を強化するとして、

(1)「事務局の人員体制の強化」
経済成長、産業競争力、イノベーション等の専門的知見を有する優秀な人材を登用。関係府省、産業界、大学等からの出向者の任期長期化等による人材の安定的な確保。

(2)「調査分析機能(シンクタンク)の強化」
シンクタンク機関(日本学術会議、科学技術振興機構研究開発戦略センター等)との連携強化。

(3)「総合科学技術会議の活性化」
総理のリーダーシップによる会議の活性化。総合科学技術会議の運営に当たって、産業界の活力を積極的に活用。

といった施策を進めるとしている。大いに進めて欲しい内容だ。

 しかし、総合科学技術会議を国家の科学技術・研究開発の司令塔として機能強化するならば、そこに防衛大臣を加え、防衛省の持つ技術研究本部の知見・ノウハウ・マンパワーを国家の科学技術戦略に積極的に役立てるべきだ。

 アメリカのインターネットやGPSが国防総省DARPAのプロジェクトから生まれたことは既に述べた。それだけではない。世界で最も実用化が進んでいる手術支援ロボットである「ダヴィンチ」は、内視鏡で得られた三次元画像を見ながらロボットアームを遠隔操作して医師が手術を行うことができるものだ。体を切らずにガン治療ができるなど、まさに社会を変えるイノベーションで、2,000 を超える医療機関に納入され、日本でも80台以上が稼働中だ。

 このダヴィンチも、元は米国国防総省のプロジェクトから生まれたものだ。1980 年代後半、米国陸軍は戦場の兵士の「遠隔手術」の実現を見据え、DARPAのプロジェクトにより研究開発が進められた。その技術がシリコンバレーのベンチャー企業によって商品化されたのがダヴィンチだ。

 アメリカの例を見るまでもなく、軍事技術の民間へのスピンオフ事例は極めて多い。軍事技術を国家の科学技術戦略から除外するのは非合理的だ。しかし、現在の日本の総合科学技術会議のメンバーは、総理、官房長官、財務、経済産業、文部科学、科学技術担当、総務に民間委員を加えたのみで、防衛大臣は除外されている。

 限られた資源と予算で科学技術イノベーションを進めるには、総合科学技術会議のメンバーに防衛大臣を加えることが極めて重要だ。

 政府の総合科学技術会議に関しては、2014年に関連法改正が行われ、「総合科学技術・イノベーション会議」へと改組された。機能強化として、同会議の調査審議対象として、従来の「科学技術の振興」に加えて、「研究開発の成果の実用化によるイノヘ?ーションの創出の促進を図るための環境の総合的な整備」を加え、有識者議員の任期を2年から3年に延長、有識者議員の任期満了後、後任か?任命されるまて?引き続き職務を行う規定を追加されるなどの改正が行われた。しかし、防衛大臣の会議メンバーへの追加は行われていない。総合科学技術・イノベーション会議のさらなる機能強化を期待したい。

研究開発予算の拡充と民間・特にベンチャーの技術開発に配分を!

 内閣府によれば、日本の科学技術関係予算は、4兆円程度で推移している。経済同友会の研究によれば、国立大学法人運営費交付金を除いた政府の研究開発予算は約2.5兆となる。一方でアメリカの科学技術予算は年間約1400億ドル(約14兆円)と大きな差がある。

 額の大小もさることながら、日本では国家予算の民間への流れが極めて小さいという問題もある。日本では科学技術関連予算のほとんどが大学や独立行政法人などの公的機関に配分され、政府から企業への資金の流れは4.3%で年間約1410 億円と非常に小さい。これに対し、アメリカでは、政府の研究開発予算の30%超が企業へ配分され、年間約4兆円となっている。政府予算はスタンフォード大学などコアになる大学を通してベンチャー企業に流れ、新技術の開発が盛んに行われる。そして大手企業がベンチャー企業から新技術を買い取り、事業化されるという好循環につながっている。

 さらに、日本の官主導のプロジェクトは、テーマが細分化し小粒化していることも問題だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトなどでは、1年1機関あたり数千万円の予算規模のものも多い。これでは、なかなか事業化には結びつかないのも当然だろう。

 したがって、限られた予算の中ではあるが、未来の日本の成長への投資としてできる限り科学技術関係予算を拡充するとともに、「選択と集中」で投資する重点分野を絞り、1件あたりのプロジェクトを大きくすべきだ。

 さらに、公的機関だけではなく、円滑に民間にも国家予算が流れるようにすることも重要だ。特にベンチャー企業へ円滑に予算を投下できる体制をつくることが必要だ。アメリカのシリコンバレーの例をみるまでもなく、イノベーションのジレンマによって革新的なラディカルイノベーションを引き起こす先端技術は大企業ではなく、ベンチャー企業から生まれやすいからだ。

 幸い、京都大学の山中教授によるiPS細胞の研究開発に投資した「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」など、これまでの日本政府の政策でも、先端技術への集中投資で 世界トップ水準の高い研究成果の創出に成功している。政府の科学技術総合戦略では、この政策の後継として「革新的研究開発支援プログラム(仮称)」(→その後、正式名称を「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」と変え、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として始動している。)を創設し、米国DARPAの仕組みを参考に、長期的視点からインパクトの大きな革新的研究テーマを選定し、独創的な研究開発を推進するという。是非とも大胆に進めてほしい。

企業は自前主義を脱却し、大学・官庁は縦割りを排除し、産官学の連携強化を!

 先にも述べたように、科学技術によるイノベーション創出のためには、国家による戦略と長期的な研究開発投資がまずあり、それが産学連携を通じて事業化されるという循環が必要不可欠だ。アメリカではこの連携がうまくいっているのに対し、日本では国家予算の民間への投入が少ない。さらに、逆に民間企業から大学への資金の流れをみても、委託研究などで企業から大学へ流れる研究開発費は、日本では約850億円(企業の研究開発費総額の0.7%)であるのに対し、アメリカでは約3100億円(同 1.3%)であり、割合として2倍、金額としては4倍近い差がある。アメリカでは、コアとなる大学を拠点として、競合企業同士が共同研究をうまく行っているのだ。

 現代において、すべて自前主義でイノベーションを生み出すのは困難だ。日本の企業は自前主義を捨て、産官学連携・産産連携を戦略的に活用してラディカルイノベーションを目指すべきだ。

 今、日本のライフサイエンス分野では、産官学連携が大いに進み始めているという。大学はもともと縦割り意識が強く、医学部、工学部、薬学部などがほとんど連携することなく独自の研究をするのが普通だったが、最近は学部間の領域融合を条件とする政府の助成金が増え、融合研究が良い形で進み、革新的な技術や製品の生成につながり始めている。

 産業界では、ライフサイエンス分野の企業合併や異業種の医療参入によって新領域の研究が進展し始めている。官では、内閣府主導による省庁横断的な事業が進むようになった。さらに、ライフサイエンス特区を拠点として産官学融合によってオープンイノベーションを創出しようとするプロジェクトが進行しており、ライフサイエンス分野での先端技術の事業化が進みつつある。

 科学技術によるイノベーション創出のために、こういった先進的な分野での産官学連携の成果を横展開し、省庁、学部、業種などの壁を越えた産官学連携を強化すべきだ。

国際標準化・知的財産戦略の強化を!

 科学技術によるイノベーションを創出しても、それが日本国内だけで閉じてしまうガラパゴス技術のままでは、未来の日本経済の成長にはつながらない。これまで、日本企業は、日本の市場がある程度大きいがために、まずは国内市場での技術の事業化を主眼としてしまい、コストも時間もかかる国際特許出願などが低迷する傾向にあった。

 国際標準にしても、国内でJR東日本等鉄道各社のSuica、Pasmoなどに使用されているソニーのFeliCaが、ISOにおける非接触型ICカードの国際標準規格の争いでオランダのロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社の規格とアメリカのモトローラ社の規格に破れたことは記憶している読者も多いだろう。非接触型ICカードの国際標準争いで敗れた日本は、その後、経済産業省の努力でより広い概念のNFC(Near Field Communication)の規格としてFeliCaを国際標準規格化する戦略に変更し、国際標準規格化に成功したわけだが、今後は戦略的な取り組みがより必要になる。

 科学技術によるイノベーションの創出を日本の成長につなげるため、政府と産業界・大学が連携して、国際標準化戦略をはじめとした知的財産戦略をより強化し、研究開発に着手する最初の段階から、国際標準化・知的財産の戦略を見据えて取り組むべきだ。

 今(注:2014年1月初稿執筆時)、ダボス会議にて、執筆しているが、世界は、もの凄い勢いで変化していることを痛感する。激しい変化の中で、じっと黙って何もしないのは、衰退を意味する。成功の反意語は失敗ではない。何もしないことだ。失敗からは必ず成功へのヒントが見つかる。日本の大学、政府、企業の在り方を抜本的に見なおして、世界全体の変化に取り残されないように、いや、世界をイノベーションで引っ張って行くのだという気概を持って、取り組んでいきたい。

 「ニッポンの未来を決めるのは、あなた達だー!」

http://globis.jp/article/3090


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