大都市の国際競争力強化で、日本全体の底上げを! 100の行動60 国土交通4
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初稿執筆日:2014年3月14日
第二稿執筆日:2016年2月26日
森記念財団が毎年実施している「世界の都市総合力ランキング」(Global Power City Index(GPCI))は 、地球規模で展開される都市間競争下における都市の「磁力」すなわち、人々や企業を世界中から惹きつける都市の総合力を、経済 、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスといった複数の分野から総合的に評価し、順位付けしたものだ。
この世界の都市総合ランキングで、東京は4位にランクインしている。1位はロンドン、2位がニューヨーク、3位がパリだが、ロンドンは2011年まで2位だったものが、2012年、ロンドンオリンピックを契機に主に文化・交流部門での指標を大きく上げて、初めてニューヨークを抜いて1位になった。
政府は2013年に閣議決定した「日本再興戦略」において、「世界の都市総合力ランキングで東京を3位以内(現在4位)に」という目標を立て、東京を新たに国家戦略特区に指定して、都市競争力を高めようという計画を立てている。国家戦略特区として東京圏の競争力を高める政策を進めることは大いに評価したいが、僅差のパリを抜くことだけが戦略目標では寂しすぎる。舛添新都知事も、この世界の都市総合ランキングを念頭に、「東京を世界一の都市に引き上げたい」と述べているが、具体的な政策は見えてこない。
東京は、日本の GDPの約2割を占める、中規模の国家にも匹敵する都市だ。2020年には東京オリンピックに向けて施策を総動員し、東京を世界中から人、企業、モノ、お金が集まる世界一魅力的かつ競争力の高い都市に育てるべきだ。人口減少と低成長で日本全体が沈むかどうかという危機的状況の中では、東京への一極集中を否定する余裕はない。むしろ、日本の稼ぎ頭である東京などの大都市の国際競争力を徹底的に高めて、日本の成長を引っ張らせる政策が必要だ。
100の行動では、大都市の競争力強化のための政策を、東京を「世界1位」の都市にする具体的な事例をもとに論じていく。
具体的な行動の前に、まずは分析をしてみたい。東京の国際競争力強化のためには、当然ながら、その強みを伸ばし、弱みを克服することが必要だ。
具体的に見ていこう。「世界の都市総合力ランキング」では、「経済分野」「研究・開発分野」「文化・交流分野」「居住分野」「環境分野」「交通・アクセス分野」の6分野で指標を作成し、ランキングを行っている。東京は、以下のようになっている。
<東京の相対的な強み>
経済分野(市場規模、市場の魅力、経済集積、人的集積、ビジネス環境、法規制・リスク)1位。
環境分野(エコロジー、汚染状況、自然環境)1位。
研究・開発分野(研究集積、研究環境、研究開発成果)で2位。
<東京の相対的な弱み>
居住分野(就業環境、居住コスト、安全・安心、生活環境、生活利便性)20位。
交通・アクセス(国際交通ネットワーク、国際交通インフラキャパシティ、都市内交通サービス、交通利便性)10位。
文化・交流分野(交流・文化発信力、集客資源、集客施設、受入環境、交流実績)8位。
東京の強みは、人や企業の集積があり、国際的な金融資本市場が形成されているなどの経済面、巨大都市であるにも関わらず環境が良いという環境面、加えて、大学等の集積による研究開発面といった分野であり、一方で弱みは、居住分野が20位、交通アクセス分野が10位、文化・交流分野も8位とランキングに大きくマイナスの影響を与えていることがわかる。
2015年10月に公表された2015年版の総合ランキングでも、引き続き1位に位置するロンドンは、2012年のオリンピック以降着実にスコアを伸ばしており、2位ニューヨークとの差をさらに広げている。東京はと言えば、文化・交流分野で、海外からの訪問者数の増加等により、留学生数、食事の魅力、外国人居住者数などの指標がスコアを押し上げ、5位へと上昇しているものの、総合ランキングは4位のままだ。そして、5位のシンガポールがスコアを上げ、東京との差を縮めている。具体的な「行動」が必要だ。
大都市の居住空間を倍増せよ!~容積率の緩和や老朽化建物の建て替えを進めよ!
東京を世界一の魅力ある競争力の高い都市にするには、弱みの克服が第一であり、その弱みの最大のものは、東京の居住・生活環境だ。東京の居住空間を思い切って倍増させるなどの政策を進めるべきだ。
東京の居住空間を倍増させるためには、土地の高度利用を進めるための大胆な容積率緩和や用途規制緩和を行うべきだ。香港やニューヨークに比べて、東京のビルやマンションは、低層階のものが多い。東京も同様に、無限に広がる空を有効活用することにより、思い切って1人当たりの居住スペースを倍増させるビジョンを打ち出して欲しい。
さらには、老朽化した建物建て替えの促進によって、より機能的な利便性の高い都市への再生を進めることも必要である。木造住宅密集市街地等の老朽化した建物の建て替えを進めるためには、建物の老朽化、低い耐震性、再開発等の建て替えを借地借家法上必要な正当事由に認めるといった制度改正に加えて、都市計画手続きや環境アセスメントの簡素化、迅速化などを進めるべきだ。
また、日本においては地震リスクへの対策は無視できず、安全安心を第一にした高度防災都市東京といった観点が必要だ。危機対策機能の強化、BCP機能の強化などに、官民挙げて取り組むことが求められる。一方、これが乱開発につながらないように大きなビジョン、グランドデザインの構築が必要である。(森ビル副社長執行役員 森浩生氏)
首都圏空港のアクセスを世界トップクラスに!
世界の主要都市と比較した際の東京の弱みは、世界からの交通アクセス・ネットワークの弱さだ。2015年版世界の都市総合ランキングにおいても、東京は交通・アクセス分野で、国際線直行便就航都市数、国際線旅客数が依然として低水準であることが東京の弱みとなっている。このため、特に東京への航空アクセスの強化を進めたい。
首都圏空港の強化に関しては、既に「100の行動57 国土交通編1 「空」の参入を自由化し、民間活力を活かせ!~東京オリンピックに向け首都圏空港の整備を!」>において詳述したが、羽田、成田、茨城に加え、将来的には横田も含めた首都圏空港の空港容量拡大と乗継利便性の向上、空港アクセスの強化等の機能強化に加えて、オープンスカイの促進とLCC参入促進で空から東京圏へのアクセシビリティの強化を進めることが必要だ。
海路に関しても、既に「100の行動58 国土交通2 日本を、成長するアジアの海の中心に!海洋国家日本の復権を!」にて詳述したのでここでは割愛する
陸路に関しては、現状で5割に留まっている首都圏の3つの環状線や首都高の機能強化、東京メトロと都営地下鉄の経営統合と完全民営化による地下鉄ネットワークの強化など、東京の都市インフラをさらに強化すべきであろう。
都市のエンタメ力を高め、文化的魅力を向上させよ!
東京の弱みの第3は、文化、交流分野だ。この分野は、大いに伸びしろがある分野だと言っていいだろう。「100の行動55 文部科学編9 2020年東京五輪を目標に、日本文化のすそ野を広げ世界へ発信せよ!」でも文化政策に関して提言をしたが、日本人の文化度の高さ、洗練さは既に世界が認めるところだ。
クラシック音楽、バレエ、建築、映画などの多様な分野で日本人の芸術性と美意識が評価されていることに加えて、最近では日本の伝統文化である日本食、茶道、華道などの無形文化は世界中からの関心が高まっている。東京は、ミシュランの3つ星レストランが世界で最も多く存在しているし、年間100万人超の来場者数のある東京国立博物館、森美術館、国立新美術館なども整備されており、文化施設も豊富だ。
実際、本稿の初稿を書き下ろした2014年3月からの2年間で「文化・交流分野」で東京は8位から5位へと順位を上げている。これは、「100の行動62 国土交通6 観光立国で日本の魅力を高め、訪日外国人3000万人を実現せよ!」にもあるが、観光政策で海外からの東京への訪問者数が887万人へと激増した他、国際コンヘ?ンション開催件数、ユネスコ世界遺産、ハイクラスホテル客室数、留学生数、食事の魅力、外国人居住者数などの指標が東京のスコアを押し上げた結果だ。しかし、トップ3都市と比較すると、海外からの訪問者数、ホテル総数、美術館・博物館数、外国人居住者数等において依然として大きな開きがあり、文化・交流分野は、東京の総合順位上昇の鍵を握っていると言える。
今後、文化・交流分野で力を入れるべきは、美術館・博物館等の文化施設、クールジャパン・ポップカルチャー分野を含めた、都市の総合エンタメ力の向上であろう。
日本には、アニメ・マンガ・ゲーム・音楽・映画・ドラマなどのコンテンツ、渋谷・原宿を中心とした若者のゴスロリやカワイイ系のファッションやコスプレ、秋葉原の高機能家電、ロボット技術など、世界から高く評価される「クールジャパン」がある。具体策は
「100の行動13 経済産業編7 Cool Japanの推進を」>で述べた通りだ。加えて、都市のエンタメ力向上のため、2015年クラフ?等の営業規制を緩和する改正風俗営業法か?成立したことは評価に値する。大都市のエンタメ力を向上させる観点て?必要な規制緩和を継続してほしい。
東京オリンピック開催の2020年に向けた施策が大きなチャンスとなろう。東京のエンタメ力を大いに高める政策を今後も進めてほしい。
国家戦略特区を活用し、大都市を世界で最もビジネスのしやすい経済都市に!
森記念財団の世界の都市総合ランキングでは、経済面において東京は世界1位とされているが、企業や人の集積が強みを発揮している一方で、法規制やビジネスコストの面では改善の余地は大いにあり、強みをさらに伸ばすことが必要だ。
特に、法人税を含めたビジネスコストを下げることが喫緊の課題だ。2014年時点で日本の法人実効税率は35.64%と、韓国24. 2%、シンガポール17.0%などに比べて大幅に高かった。同時期イギリスが、法人実効税率の28%から20%への引き下げ方針を表明したが、世界的に見ても法人税制の見直しは大きな課題である。その後、日本では、2016年に31.33%まで引き下げを行ったが、諸外国との差は依然として大きい。
現在政府が進めようとしている「国家」戦略特区より前に、既に東京都は「国際」戦略総合特区として「アジアヘッドクォーター特区」に認定されている。この特区では、東京に欧米・アジアのグローバル企業のアジア本社・研究開発拠点を誘致し、民間投資を誘発することを目指しており、アジアの業務統括拠点、研究開発拠点を設ける外国企業に対しては、特区適用の税制優遇と法人事業税等の免除により、法人税を 28.9%まで下げるとしている。
今後「国家」戦略特区に認定するのであれば、さらなる優遇政策、複雑な法規制の簡素化、アジアの競合都市に引けを取らない魅力的な政策的支援を進め、東京を世界一ビジネスがしやすい都市に育て、 国際的な都市間競争を勝ち抜いていくべきだ。
さらに、外国企業や海外からのビジネス客を誘致するという意味ではビジネスコンベンション機能の充実がさらに必要だ。今、議論されているカジノ法案を是非とも前に進め、東京の魅力度をさらに高める政策の立案を期待したい。
外国人の受け入れ環境の強化を!
東京を世界中の人や企業を惹き付ける「磁力」のある都市にするには、外国人受け入れ環境の強化が必要だ。外国人受け入れ環境に関しては、これまで論じてきた分野のそれぞれに亘る分野横断的課題だが、東京は、今でも英語化・多言語化の遅れ、医療や教育面などでの外国人の受入環境の整備の不十分さが指摘されている。
このため、外国人医師による診療機関やインターナショナルスクールの拡充、公共交通機関の外国語表記などの国際化、在留外国人の出入国手続きの簡素・合理化などできることはすべて進めるべきだ。
加えて、「100の行動33 金融編2 東京をアジアNo.1の金融市場に!(2)」>でも述べたように、シンガポールでは18%に過ぎない所得税が東京に住むと55%取られるという税金の高さは、優秀な外国人が東京に進出しようとする際に、大きなボトルネックとなっており、特区として外国人の所得税を一定期間半分にするなどの優遇策も大いに検討に値するだろう。
こうした都市競争力強化の政策を総動員して東京の国際競争力を高め、世界から人々や企業を呼び込む。その経済効果は、東京だけでなく、東京へのゲートとなる成田、横浜、茨城を含め、産業集積地となる周辺県に広がり、東京を中心としたグレーター東京の経済成長へとつながるはずだ。
もちろん、東京圏だけではない、大阪圏、名古屋圏、福岡圏、さらにはその他の都市圏も含めてそれぞれの大都市、中核都市の競争力強化を通じて、日本全体の成長を狙い、世界レベルで競い合うことが必要だ。そして、千葉、横浜、川崎、浜松、京都、神戸、北九州等の政令都市の魅力度を上げて、大都市の国際競争力を強化することにより、日本全体の底上げを実現したい。
一方、今後は大都市圏以外の地域における改革も必要になる。その点に関しては、次の100の行動にて詳述したい。
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