発想を転換し過疎化を肯定的に捉えよ!地方都市への集住を促進し、都市化率を上げる政策を! 100の行動61 国土交通5
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初稿執筆日:2014年3月21日
第二稿執筆日:2016年3月2日
中国やインドといった各国では、農村など郊外に住む人々を都市に移住させ、都市化率を上げることが政策目標として明確化されている。つまり、(裏を返せば)過疎化を進めることを政策目標に据えているのだ。例えば中国では、都市化が内需や消費の拡大によって経済成長の牽引役となることが強調され、2020年までに都市化率を60%、2030年までに65~70%に引き上げるという目標を明示している。今後10年間で40兆元(約640兆円)を投じ、約2億人(農村人口)を都市に移住させる計画を立てている。
なぜこれらの国が都市化=過疎化を目標にしているかといえば、都市化は経済成長を牽引するからだ。都市への人口集中によって一定の市場規模が形成され、地域経済が活性化し、雇用も生まれる。日本では、サービス業の競争力が低いと言われるが、これは都市化率が低いことが原因といわれる。規模の小さい町がたくさん点在しているため、飲食業やクリーニング業、小売業などの個人向けサービス業の利益率が低く、その結果雇用が生まれずに非効率なまま放置されることとなる。
今後、人口減少と高齢化が進む日本のような先進国においても、都市化率を上げることは、行政サービスの効率化・質の向上、高齢化社会への対応などの点で必要な政策だ。
今後の日本の国土政策は、過疎化を肯定的に捉え、地方においても都市への集中・集住を大胆に促進し、コンパクトシティを形成することを基本とすべきであろう。
都市化率向上の戦略を策定し、数値目標を明確化せよ!
実は、日本の都市化率は先進国に比べて低い。2005年時点の日本の総人口に占める人口集中地区の割合は66%で、先進国の都市化率平均70-80%以下となっている。また、日本に1727ある市町村のうち、統計の変動もあるが、恐らく1300以上の市町村が10万人以下、1100以上が人口5万人以下であるのが現状だ。
これは、日本がとってきた政策に起因すると言えよう。日本の国土政策の考え方は長年「国土の均衡ある発展」として、各地方を万遍なく開発することを基本としてきた。人口や経済の規模が拡大し、地域格差や過密・過疎問題が深刻であった時代には、大都市集中を抑制し分散型国土を目指す政策は合理的だったのかもしれない。
しかし、そもそも、国土の発展と称して地方を必死に開発して自然を壊すことは、観光資源や自然環境の破壊によって国力の減退を招くことだともいえよう。むしろ、人口や産業の配置を都市に集中させ、過疎化していく地域は積極的に過疎化させていく方が、自然環境資源、観光資源といった日本の資源を守るのにも理にかなう。
さらに、今や日本は人口減少社会だ。日本の地方都市では、今後、急速に人口が減少し、30年後の人口は1970年頃の人口と同程度(現在の約2割減)となる見込みだ。このままでは、地方におけるサービス業など地域経済が一層低迷し、雇用低下、企業撤退を引き起こすだけでなく、一定の人口集積に支えられた各種の都市機能(医療・福祉・商業・子育て支援等)や公共交通が成立しなくなってしまう。さらに、社会保障費や公共施設・インフラの維持更新費用の増大、住民税収や固定資産税収の減少により、行政サービスも質の低下を余儀なくされる。
都市化率を上げ、人口が集中したコンパクトシティの形成が進めば、
・ 人口集積によりサービス業などの地域経済の競争力が上がり、雇用が増える
・ 行政サービスの効率的な配分が可能となる
・ バリアフリー化や医療施設などの高齢化社会への対応やインフラ維持管理費などの社会的コストの低減につながる。
・ 多くの人が生活の中で徒歩を活用するようになれば、健康長寿社会につながり医療費の削減も見込まれる
・ 都市部への居住誘導が地価の維持に寄与し、固定資産税収にも寄与する
といった多くの効果が見込まれるのだ。
したがって、政府として都市化率の向上に向けた戦略を策定し、市町村の目標人口の設定や人口集中地区に居住する人口割合の目標設定などの数値目標を明確化すべきだ。例えば人口集中地区居住割合を今後20年で75~80%に引き上げる目標や、市町村人口の下限を当面人口5万人とし、長期的には人口20万~40万人の基礎自治体で構成される日本を目指すことも真剣に検討すべきであろう。
都市部への集住を促進するインセンティブを!
過疎地域では今後さらに高齢化、過疎化が進み、集落が続々と消滅していくことが想定される。80歳を超えた人が数人で暮らす集落では、家屋の老朽化が深刻だ。壊れかかった家で、風呂・便所も旧式、孫や親戚も寄りつかないのが実情だ。災害対応への不安など、住んでいる本人達も決して幸福ではない。
しかし、そういう集落のためにも、道路、救急、警察、介護サービス、公共交通といった社会インフラは必要で、かなりの税金が投下されている。和歌山であった実例を紹介しよう。おばあさんが一人で暮らす川中島があり、2013年の大水害でその島にかかる橋が崩落した。ところが、その橋をなんと2億円かけて復旧したのである。
こんなことは持続可能ではないし、持続させるべきでもない。本人たちにヒアリングをすると、拘っているのはご先祖様の土地を手放せないということと墓守を誰かがしなければならない、という2点であった。本人達も幸福ではないのだ。
この方々に、「都会へ移住せよ」は困難だが、その町村の役場の近くに移ってもらうというのは、現実的には可能であろう。役場のそばに、地元木材を活用した高齢者向けのバリアフリーの素敵な住宅を集約して建設する。診療所、介護ステーション、買い物が出来るスーパー等もそばに集めて、孫や親戚が遊びに来て宿泊できる清潔な施設も建設し、コンパクトで快適に住める環境を整備してはどうだろうか。
原資は、限界集落のために投資してきたインフラコストを充てれば、お釣りが来るであろう。民間企業で投資するところも出てくればなお良い。その結果、財政の悪化を防ぎ、都市化も進み、限界集落も減らすことができるのである。
都市部に住むか郊外に住むかを決めるのは、結局は人々の判断だが、政策として都市部への集住を促進するためのインセンティブ施策を用意することで、人々の行動に影響を与えることが可能となる。
もう一つの実例を紹介しよう。富山市では、都市部への居住に対して補助を行い、集住を促している事例もある。集住を促進するための直接的な補助金を支給している。今後は、都市部への集中・集住を促進するための都市計画が必要になる。
都市への人口、産業、機能の集中を促すエリアを設定し、そのエリア内での住宅等建築物の建築を促進する。エリアに応じた住宅ローン減税・金融支援の格差設定、固定資産税の格差設定など、一定エリアへの住宅の買換えを促進する税制措置などが検討されるべきだ。
この施策により、都市部への集中によるメリットを享受すると同時に、過疎化により農業や自然ツーリズムを促進するメリットも享受することができる。過疎のエリアにおいては、住宅等の建築物の建築や開発を極力避け、農林業への活用、自然環境を守り水資源など環境資源の保全、観光資源としての活用など、人の住まない地域を自然環境等として積極的に捉え、維持・保全する土地利用計画を進めるべきだ。まさに、発想の転換をして過疎化を前向きに捉えるのである。
過疎地を優遇する補助金制度や地方交付税を廃止し、市町村合併を促進せよ!
人口集中地区居住割合を引き上げ、人口5万人以上、長期的には20万~40万人の市町村を多くするには当然、市町村合併のさらなる推進が必要だ。合併が進めば、都市部への人口の集積も進み、経済、金融、医療、介護施設といった各種都市機能の維持も容易になり、地方自治体の財政力・経済力・交渉力も強化される。
1999年から2010年までに実施された「平成の市町村大合併」によって、日本の市町村数は3232から1727まで縮小したが、今でもなお、集約化は不十分だ。政府は、今一度、より徹底したインセンティブ・ディスインセンティブ施策を用意し、市町村合併を促進すべきだ。特に、補助金や地方交付税交付金における過疎地優遇を廃止することを提唱する。
「100の行動28 財務編2 歳出削減のしくみを政府に組み込め!」で筆者は「地方交付税廃止」を提唱したが、現在、地方交付税法によって、所得税・酒税の32%、法人税の34%、消費税の29.5%、たばこ税の25%が自動的に地方交付税に充当され、2014年度ベースで16.8兆円が交付税として地方に配分されている。
そもそも過疎地域でも財政的に持続可能なのは、各種の国からの補助金によって過疎地域が優遇されてきたからだ。交付税の額算定は複雑な点数式で行われるが、過疎、山村、離島、半島等の地域であることが加点事由となっているのだ。
今後、国土政策・海洋政策の稿において、特に国境海域等における離島地域の保全や資源開発の重要性に関しては提言を行う予定だが、それ以外の純粋な過疎地域に関して財政支援を継続する正当性は低い。国からの補助金・地方交付税交付金における過疎地優遇は廃止し、都市部への集中を促進すべきだ。
空き家・空き地の有効活用を促進せよ!
地方都市では既に人口減少に転じているところも多く、市街地では相続などを契機に空き家化・空き店舗化が進展し、これがさらに市街地の活力を失わせている。総務省の2008年調査では空き家の総数は757万戸で、空き家率は全国平均13.1%に達し、各都道府県の県庁所在都市でも約15%が空き家となっている。さらに、2013年調査では空き家の数は820万戸にまで達している。都市部への人口集中を促し、効率的なコンパクトシティを目指すに際にも、空き家・空き店舗対策は深刻といえよう。
一方で、空き家や空き店舗の有効活用を進めている事例も多い。震災復興支援を行う一般社団法人KIBOWでは、2013年9月、岩手県の陸前高田未来商店街にて通算23回目となるKIBOW陸前高田を開催したが、優勝に輝いたのは、一般社団法人おらが大槌夢広場による「古民家再生プロジェクト」だった。空き家を活用して自然学習の研修や林間学校事業だ。また、欧米ではインターネットを活用して空き家・空き店舗を短期的な貸出しのマッチングを行うベンチャーもあるし、日本でもそういった企業は出てきている。有効活用できる空き家・空き店舗は積極的に活用し、そうでないものは整理・撤去が必要だ。
空き家の増加は、
・ 所有者が死亡した場合、相続しても登記の書き換えが行われず、所有者の特定が難しく自治体から改修や撤去指導ができない。
・ 200㎡以下の小規模住宅地では固定資産税が軽減されるが、空き家を撤去して更地にすると特例措置が適用されず、同税が6倍になるため、空き家を現状維持する傾向がある
・ 古い空き家の場合、土地の形状が建築基準法の道路条件(敷地は原則、道路と2メートル以上接していなくてはならない)を満たしておらず、解体してしまうと新たな建物が建てられない
・ 高額な撤去費用が捻出できない
といった原因が指摘されている。これらの制度的課題を整理するとともに、固定資産税等によるディスインセンティブや、有効活用した場合の相続税等のインセンティブなど税財政上の措置について早急に制度設計を進めるべきだ。さらに、私有財産との関係はあるものの、ある程度市町村等に強制力を持たせ、空き家を撤去して自治体が管理できるような制度なども検討すべきだろう。
2015年に施行された「空き家対策特別措置法」により、国はやっと空き家対策に動き出したといえる。この法律により、
・市町村による空家等対策計画の策定
・空家等の所在や所有者の調査
・固定資産税情報の内部利用等
・データベースの整備等
・適切な管理の促進、有効活用
などの施策を進めることとなり、倒壊等著しく保安上危険となる恐れのある状態にある等の特定空家に関しては、市町村が措置の実施のための立入調査、指導→勧告→命令→代執行の措置を行うことが可能となった。国の「行動」を評価したい。
都市部以外に住む人々への対応には先端技術を活用せよ!
いくら都市部への人口集中を促進するといっても、農林水産業に従事するなど集住に適さない人々は当然いるし、過疎地における居住を敢えて選択する人々もいるはずだ。都市への集中を進め、行政的コストを最小限にし、地域経済の活性化、雇用創出を狙いながらも、多様なライフスタイルをサポートすることは必要である。そのためにも日常生活に必要なライフラインは確保されるべきだ。
その際には、従来のように、日本中どこに住んでも、電気、ガス、上下水道などが完備されているという常識の延長線上ではなく、集住のエリア外となる住民に対しては、例えば水は水道管ではなく給水車によるデリバリーで対応可能だし、バスなどの公共交通もデマンド型に変えていくなど、これまでとは異なる新たな考え方によってサポートを行うべきだ。
ネットショッピングのアマゾンは、近い将来に無人機による配達サービスの実現を目指している。ITを活用した遠隔診療や遠隔授業なども既に実現している。そういった技術革新による最先端技術を活用して、低コストなライフラインの整備を行うべきだ。
今後の日本は、国土の均衡ある発展ではなく、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡などの大都市の競争力をさらに高め、稼ぎ頭として日本全体を牽引させるとともに、その他の地域においても中核都市への人口集中と産業集積を促進し、選択と集中によってダイナミックに各地域拠点ごとの発展を目指す、そういった発展の戦略を描くべきだ。
まさに発想を転換し、過疎化を肯定的に捉えて、地方都市への集住を促進し、都市化率を上げる政策を実現して欲しい。その結果、少子高齢化が進んでいく日本においても、活力がある地方都市が存続し、新たなイノベーションや雇用が生まれる源泉となろう。
この「行動」が行われないと、限界集落や過疎化されている地域に無為な税金が投入され続けていく。そのコストにも関わらずに、それでも過疎化が進んでいくのだ。行動を起こさずに日本全体が静かに沈んでいくのを傍観するよりも、改革に向けたこの行動を起こす方が、明るい未来を切り開いていけると言えよう。その改革姿勢を持ち行動することが、未来に住む僕らの子孫たちへの責務でもあろう。
(この「行動」の執筆には、内閣官房副長官の世耕弘成氏より助言を頂いた)。
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