5つの行動で「同時多発的」な自治体改革を! 100の行動70 総務4
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初稿執筆日:2014年6月6日
第二稿執筆日:2016年5月3日
G1サミットに参加する首長が「G1首長ネットワーク」を組成し、5つの重点分野を列挙し、役割分担をして、地方からの改革が始まった。2012年のことである。
この「G1首長ネットワーク」は、現在では10県知事12市町長、元首長によって構成され、年に2回の合宿での本音の議論を通じて政策を練り上げている。G1の掲げる「批判よりも提案を」「思想から行動へ」の趣旨に基づいて、地方自治体の現場で同時多発的に変革の具体的なチャレンジを行い、日本の活力を創造することを目指している。昨年夏合宿でまとめた「武雄イニシアティブ」に基づき5つのワーキング・グループ(WG)をつくって、政策を共有し、取り組みを競っている。
具体的には、以下の5つのWGだ。
ICT
経済
人材
少子化
教育
では、一つひとつ、その「同時多発的」な改革を検証していこう。
ICT:マイナンバーをきっかけに破壊的改革を地域から!
「G1首長ネットワーク」においてICT-WGを取りまとめている全国最年少政令市市長・熊谷俊人市長の千葉市は、G1をきっかけに福岡市、奈良市、武雄市とともに「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」を設置し、オープンデータの意義や公開ルールに関する指針を策定した。市民サービスの向上や経済の活性化など、高い効果が見込まれる分野からデータの公開を積極的に進めている。
千葉市ではオープンデータによって既にいくつかの成功事例も生まれている。千葉市が指定する津波発生の際の「津波避難ビル」の位置情報を、行政がオープンデータとして配信することで、避難する人々を支援するアプリケーションの開発や、「AR(Augmented Reality=拡張現実)」を活用し、スマートフォンを空間にかざすだけで、現在地から最寄りの「避難場所・避難所」、「津波避難ビル」及び「非常用井戸等」の情報を知らせることができる。その場所からの避難経路も表示するサービスなどを、民間が開発しているのだ。
また千葉市は「ガバメント2.0」として、スマートフォンアプリを活用した“地域情報の市民通報の仕組み”に取り組んでいる。例えば「ちばレポ」では、市民がスマホを活用して、フィックス・マイ・ストリートというアプリをダウンロードし、公園などの公共施設のメンテナンスに市民の力を活用しようとする取り組みだ。例えば市民が道路の破損を見つけたとき、写真を撮ってアプリで送信。情報は市役所に集められ、修理・修繕の対応を行う。「ちばレポ」は2014年9月に本格運用を開始。9カ月間で参加登録者は約3000人、レポート数は1190件に達し、レポートの88%について対応を完了している。アンケートでは、98%の人が「ちばレポの仕組みは便利だと思う」と答え、77%の人が「ちばレポに参加することで、街を見る意識が変化した」としている。市役所の業務の一部を市民がサポートするだけでなく、何よりも、市民の市政への参加のあり方が変わるのだ。
千葉市ではさらに、マイナンバー制度の導入に伴い、市役所に一度も訪問しなくても、必要な手続きがすべて完了する先進的な改革を目指している。武雄市、千葉市、奈良市、福岡市、三重県、室蘭市、大津市、弘前市、横須賀市、郡山市、日南市、浜松市などの他の自治体も巻き込んで、企業・大学と連携し、マイナンバーの利活用の推進やビッグデータ・オープンデータの活用推進のため、2015年4月から「オープンガバメント活用推進協議会」を組織し、千葉市長が会長を務めている。
このようにICTの発展を自治体経営に使わない手は無い。その際のポイントは3つだ。
1つ目のポイントは、すべての手続きをオンラインで行うことであろう。
今後は、出生届け、移転届け、婚姻届け、住民票や戸籍謄本の発行の手続き等を、すべてオンラインで行うようになる。まさに、スマホやタブレットで行うことができるようになるのだ。
2つ目のポイントは、市民との連絡がメールやソーシャルメディアで行うことができることになる。千葉市では、既にメールによる市民とのコミュニケーションが始まっているし、武雄市ではフェイスブックをコミュニケーションのツールに使っている。ツイッターでコミュニケートする首長も増えている。
3つ目のポイントは、一市のみの活動でなくて、各地に「繋げる」ことであろう。
オープンデータやオンライン化の推進に加えて、自治体のICTシステムの共有化が重要であろう。特に、予算、労務、人事など各自治体に共通するバックヤード業務は、全国の自治体でのシステムの共通化が可能だ。当然コスト削減効果は絶大であるはずだ。その際には、今までの様にいちいち作り込むのではなくて、すべてがパッケージ化されたクラウドで処理することになるであろう。
ICT-WGでは、上記のような問題意識をもとに、以下の取り組みを進める予定だ。
○ 各自治体の電子化、ペーパーレス化、データベース化
○ オープン化されたデータの場所が容易に分かるリファレンス機能の実現
○ マイナンバー制度への移行を行政サービスイノベーションの切り札として機能させるための普及促進方策の検討
○ ICTレガシーの脱却
マイナンバー制度導入、廃県置道への移行といった制度変更を見据えて、オープンデータの推進とICTシステムの共有化が進められることを期待したい。このWGを引っ張っている千葉市が先陣を切り改革し、全国に「同時多発的」に改革が進むことを期待したい。
経済:スタートアップ都市推進協議会を起爆剤に産業の発展を!
2つめは「経済」だ。経済-WGでは、福岡市の髙島宗一郎市長が中心となって、各地域でベンチャー企業がうまれるエコシステム(生態系)の醸成を目指す取り組みを進めている。まさに、ベンチャーこそ地域活性化と雇用創出の切り札の一つになるという認識に基づいているのだ。今後の日本は、自立・独立した地方政府が経済政策を競い合い、その切磋琢磨と競争によって日本経済全体が成長していくモデルこそ望ましいのである。
2013年末には「チャレンジできる日本へ」とのキャッチコピーを掲げ、福岡市、千葉市、浜松市、横須賀市、奈良市、三重県、広島県、佐賀県の8自治体で「スタートアップ都市推進協議会」を立ち上げた。
実は、筆者も経済同友会のベンチャー創造委員会の委員長の立場で、このスタートアップ都市推進協議会の発足式に参加した。今年度より、この委員会は名称が変更され、「スタートアップ都市推進協議会協働プロジェクトチーム」となった。委員長は筆者が務めている。まさに、この地方からの改革を推進する役割となったのだ。
取りまとめ役である福岡市は、新たな起業と雇用を産み出す「グローバル・スタートアップ国家戦略特区」に、東京都、大阪府とともに選定された。
福岡市は、人口増加率や若者率が日本で最も高く、ビジネスコストの低さやアジアに開かれた地理的ビジネス環境の良さなどもあって、起業率は日本の政令市でトップである。同市では、これまでもスタートアップ支援を積極的に進めてきたが、国家戦略特区となったことで、さまざまな規制緩和などによってさらにスタートアップしやすい都市づくりを進め、現状6.4%の起業率を20%まで高める目標だ。これからの福岡市の爆発的な改革を期待したい。
経済-WGでは、以下の取り組みを進める予定だ。
○ 各地の大学への起業家教育プログラムの設置の働きかけと指導者層育成
○ G1や経済団体の協力を得て、地域の財産と全国、世界とをマッチングする事業
○ 地域からベンチャー企業を育てるための入札、調達のあり方の検討といった取り組みを連携と切磋琢磨をしながら進める
筆者は2014年、スタートアップ推進協議会に所属するすべての自治体を訪問し、小学校、中学校でスピーチをしたり、地域財界とのシンポジウムを開催した。スタートアップ都市推進協議会はその後も日本全国でシンポジウムやマッチング交流会を積極的に実施し、各地域のベンチャー企業と東京などの大企業・海外の若手経営者・投資家等とのビジネスマッチングを行っている。まさに、「同時多発的」な改革が、地域から始まるのである。
人材:G1東松龍盛塾、そして専門家人材と自治体のニーズのデータバンクの全国共有を!
3つめが「人材」だ。自治体経営において首長がリーダーシップを持って改革を進める上で、その首長を支える人材は極めて重要だ。特に経営感覚を持った外部人材や、各分野に専門性を持った人材が首長を支える体制ができることが望ましい。
G1首長ネットワークが主体となり、先ずは議会における人材を育成すべく、「G1東松龍盛塾」を始めた。東松龍盛塾の名前の由来は、藤田東湖、吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛のそれぞれ東、松、龍、盛をつなげたものだ。まさに、水戸から始まり、土佐、薩長へと伝播し、日本を改革した維新精神のごとく、各地域から「同時多発的」な改革を進めるべく命名された。
一方、地方議員に加えて、自治体職員に外部人材を登用し自治体の経営力強化を図るために、ポリティカルアポインティー(政治任用)を増やすことも極めて有効だ。
官民間の立場を優秀な人材が出たり入ったりできるリボルビングドア(回転ドア)のシステムは、行政機関はもちろんのこと、民間企業にとってもメリットのあることだ。この点において、官民の間にある人事制度の差異を乗り越えるために武雄市が導入した一部職員の年俸制などは注目すべき取り組みだ。また現在、広島県と岡山県では、マッキンゼー出身でMBAを取得した人材を、共有して採用している。週の半分は広島県で、週の半分は岡山県の職員だ。この方法により、双方の県のベストプラクティスを学び合い、導入することが可能になる。
さらに、自治体間・政府-自治体間の人材移動を有効に機能させることも必要だ。廃県置道を待たずとも、今後もより住民生活に密着した基礎自治体への権限と財源の移譲は進み、基礎自治体に求められる能力と機能は増大する。霞が関・都道府県・市町村間での人材流動は必定だ。
加えて、財政再建のスペシャリスト、トンネル掘削計画のスペシャリスト、イベント運営のスペシャリストといった、能力の高い専門人材「仕事人」については、プロジェクトベースで自治体間を移動するような仕組みが構築できれば、非常に有益だ。
上記のような問題意識を持ちつつ、人材-WGでは、若手の吉田雄人・横須賀市長が中心となって、日本全体の人的資源の最適配分と行政組織の活性化を目指し、自治体と自治体、自治体と民間の人材交流を実現する「ローカルガバメント人材活用データバンク」創設に向けての検討を重ねている。具体的には、
○ 協議会設立と制度設計、人材系民間企業やドットジェイピー等のNPOとの連携
○ 「監査部門」に関するG1サミット参加自治体間での人事交流の可能性についての検討
○ G1首長ネットワーク共同での職員研修制度の検討
○ 有識者情報の共有
といった取り組みだ。
「ローカルガバメント人材活用データバンク(仮)」は、知見ある外部人材や自治体内部の人材について、各自治体のニーズに合わせたマッチングを実現するデータバンクを目指している。自治体間、自治体と企業間での人事交流、自治体間の研修制度の共有化など、この取り組みを全国的に拡げることで自治体の経営のあり方が変わる。
企業も自治体も経営のカギは「人」なのだ。日本が、人材面でも地域から「同時多発的」に改革されようとしている。
少子化:子育て同盟、「企業子宝率」の向上を!
4つめは、「少子化」だ。国の政策に頼るだけでなく、人口減少・少子化に関しても、自治体経営によって改革できる点が多い。2013年、少子化問題に危機感を持ち、子育て支援施策に意欲的に取り組む10県による「子育て同盟」が発足した。
宮城県、長野県、三重県、鳥取県、岡山県、広島県、徳島県、高知県、佐賀県、宮崎県の10県による「子育て同盟」では、専用ポータルサイト「はぐくみ支援ポータルサイト」を開設し、施策や人材の紹介、キャンペーンなどに関して積極的に情報発信するとともに、子育て支援策等に関する情報を参加自治体間で共有・交換して、切磋琢磨し、施策のブラッシュアップを図っている。これらの知事たちは育児休暇を取得したりするなど、「育メン」として知られているG1の仲間だ。
子育て-WGでは、子育て同盟にも参加する全国最年少、鈴木英敬・三重県知事が取りまとめ役となり、各自治体において、「合計特殊出生率を5年で0.1%増達成する」目標や、「女性活躍推進のため2020年における各自治体職員の女性リーダー層30%」「企業子宝率の向上」といった具体的な目標を共有し、その実現に向けたプロジェクトを各自治体において立ち上げる取り組みを行っている。
ちなみに、企業子宝率とは、企業の従業員一人(男女問わず)が、その企業に在職している間に何人の子宝に恵まれるかを推計する指標だ。男性の労働時間短縮、女性の働きやすさ、テレワークなどの多様な働き方などが結婚や出生率と相関関係が高いと言われている。自治体経営において、こういった「見える化」された目標設定を行うとともにデータを共有し、その改善のための政策を競争しあうことで、地域人口増のモデルを実現させることが望まれる。
地域から同時多発的に、少子化を食い止める動きが始まっていることは大いに期待したい。
教育: 教育委員会から権限を奪い、学校経営改革や民間活力の導入を積極的に進めよ!
最後は「教育」だ。「100の行動」文部科学編でも述べたように、国の役割は教育のナショナルスタンダードの維持等に限定し、自治体が主体的に学校経営や教育方法等関与すべきであろう。
「G1首長ネットワーク」教育-WGでは、滋賀県大津市の越直美市長がとりまとめ役となって教育改革に取り組もうとしている。
弁護士出身の教育改革派市長である越市長は、大津市中2生徒いじめ自殺事件に端を発し、教育委員会改革を提唱している。前任市長時代には、警察や教育委員会が事件として認めなかったものを、その因果関係を認める決断をし、第三者調査委員会を教育委員会から切り離して、市長直属で設置した。
この事件を契機に現行の教育委員会制度の責任の所在の曖昧さ、非常勤の教育委員の限界、民意の反映の難しさが明らかになった。越市長はこの痛みと経験を通じて、
①教育事務を地方公共団体の長が直接行う
②教育長は地方公共団体の長の下で教育事務を行う
③教育監査委員会が地方公共団体の長を監査する
といった改革案を提唱し、教育委員会制度改革の先頭に立っている
これはまさに、100の行動48文部科学2<教育委員会の廃止、学校長の権限を強化、大学入試改革を!>において、「教育委員会を廃止し、自治体の責任と役割の強化を」と提言した問題意識と合致するものだ。こういった「行動」の結果、教育委員会に関しては、2015年から新制度がスタートし、これまでの教育長と教育委員長を統合した新「教育長」を首長が直接任免するようになった。これによって、教育行政における首長の責任が明確化された。
一方、武雄市では、先生が教えるのではなくて、コンピューターが教えるという破壊的な改革に乗り出している。つまり、タブレット端末による「電子教科書」や宿題アプリを使って、「基本的な授業そのものは家で動画を視聴し、教室では他の生徒や教師と一緒に分からなかった箇所の復習や応用問題に取り組む」という「反転教育」に挑戦しているのだ。これは100の行動49 文部科学3< ITを教育に活かし、伝える力、創造性に富む日本人の育成を!>でも触れた内容だ。子どもたちは先生のスキルに左右されずに、その分野の専門家や人気講師、スポーツ選手や文化人などの著名人などによる最高レベルの授業を受けることが可能となり、復習中心の相互学習で効果が上がることが期待される。
はなまる学習会と学校による官民一体公教育の導入も進んでいる。
教育-WGではこれらの教育委員会改革の具体的な議論のほか、子どもたちが本物に触れながら育つ環境づくりを検討している。具体的には
○ 部活動改革:学校現場や地域スポーツクラブへのアスリートの派遣のシステム。任期付き職員等でのアスリートやアーティスト等の採用システムの構築
○ 教育現場、教育委員会と民間・企業等との連携の事例づくり
等に取り組んでいる。これからもやるべき改革のメニューは増えていく。やれるところから一歩一歩取り組むことにより、地域からの同時多発的な改革が進んでいく。
まとめ: 同時多発的な改革を!
これまで紹介したように、現行制度下においても、優れた首長による地方自治体経営の挑戦事例は多数存在する。そして彼らは、アイデアを積極的に共有し、良い意味で競い合っているのが特徴だ。重要なのは、それらの事例にスポットを当て、横展開し、良いものは日本全国に広げる方法論だ。
「100の行動」でも何度か紹介した佐賀県武雄市の樋渡啓祐元市長も、武雄という小さな町で、前例に縛られず、規定概念にとらわれず、タブーにあえて挑み、制度や財政のせいにせず、実践あるのみと挑戦を続け、その姿勢は「経営者」そのものであった。
TSUTAYAと連携した斬新な市立図書館運営は、自治体における官民連携の新たなスタイルを明らかにし、行政の可能性を全国に知らしめた。今やこの図書館には連日多くの観光客までもが押し寄せている。
変革と転換期にあって、自治体経営改革は、リーダーの資質によるところが大きい。G1首長ネットワークに集う首長がひざを交えて議論をしていると、そのことを強く感じる。
繰り返しになるが、大事なのは、そういった先進的な政策を横展開し、課題と知見、ノウハウ、成功事例を共有し、同時多発的に取り組みを進め、自治体経営現場の改革を日本の変革へとつなげることだ。地域間競争による切磋琢磨によって、日本全体の底上げが実現する。
G1首長ネットワークはそのエンジンになるものと信じている。「同時多発的に各地で改革を行えば、日本は変わるはずだ」。その言葉通りに、日本が地域から改革されるためにも、僕ら一人ひとりが声を上げ、行動に移していきたい。
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