産業、観光、サービス、農林水産業による地方創生を!~「なめんなよ茨城県」の事例から学ぶ 100の行動85 内閣府4
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初稿執筆日:2014年11月4日
第二稿執筆日:2016年7月25日
我がふるさとの「茨城県」は、2年連続で都道府県ブランドとしては最低の評価を得た。
ブランド総合研究所が毎年実施している都道府県魅力度ランキングの調査によると、「茨城県」ブランドは最下位だった。つまり、ブランドとして、茨城県は全く魅力が無いのだ。だからなのか、茨城県庁が採用したキャッチコピーが「なめんなよ茨城県」だ。もうやけくその感覚さえ漂ってくる。(2016年現在のキャッチコピーは「のびしろ日本一。いばらき県」)
だが、実は茨城県の所得水準は全国6位と極めて高い。平均敷地面積は一番広い。さらに、農業の産出額は北海道に次ぐ全国2位を堅持しており、実は2013年の企業誘致は工場立地件数・面積・県外企業の立地件数の3項目で、全国1位を独占している。
つまり、「なめんなよ茨城県」は、所得は豊かで、家は広く、田園風景が続き、工業製品も多く産出する県であることが浮かび上がってくる。実は、豊かな田舎なのだ。
今回の「100の行動」地方創生編では、筆者の故郷であるブランド価値最低の「なめんなよ茨城県」をモデルケースとして、各産業について論じ、地域経済再生のヒントを提案してみたい。
産業:大学・研究機関や民間企業を中心とした産業クラスターの形成強化を!
「なめんなよ茨城県」の所得が高い理由の1つとして、産業クラスターの集積が上げられる。いわゆる「つくば」「東海村」「日立」「鹿島」である。
つまり、産業技術総合研究所(産総研)や筑波大学を中心とした研究機関を国策として集約した「つくば」。原子力関連施設を中心とした「東海村」。電気機械産業と関連中小企業の共存による産業集積の「日立」市。石油化学、鉄鋼プラント等の工業集積の「鹿島」。こういった産業クラスターの形成に成功していることが、所得水準が高い主要因だと言えよう。
それぞれの地域は、実は全く違う形態でクラスター化されていった。「つくば」は、筑波大学を中心とした研究開発拠点として人工的に開発された。「東海村」は、大洗を含めた原子力のメッカとして集積し、その近郊の「日立」は、日立製作所の城下町として栄え、「鹿島」は大規模な人工港の建造により鉄鋼・石油化学の一大工業地帯ができあがったのだ。
日本では1980 年代以降、当時の通商産業省の政策で各地域における産業クラスター形成計画が進められた。これは、全国各地に企業、大学等が産学官連携し、産業クラスターの形成を狙ったものだ。官主導のこうした産官学連携が全国的に必ずしもうまくいっているとは言い切れない。
だが、地方経済の成長のためには、すでに各地に集積している知的資源を活用し、産業界と地域・国とのアライアンスを強化する必要がある。茨城県の4つの事例でもわかるが、国家のコミットメントはかなり重要と言えよう。
さらに交通インフラも重要だ。茨城県を縦に走る常磐高速道に加え、県南を埼玉・千葉へと横切る圏央道、県央を横切る北関東自動車道、県東を千葉と結ぶ東関東自動車道等の整備が進んでいる。内陸部の工場地帯や首都圏の中堅都市が接続され首都圏との近接性が向上している。
かつて独立して管理されていた日立港、常陸那珂港、鹿島港は統合され国際中核港湾として戦略的に一括管理される「茨城港」として再スタートを切った。常陸那珂港区は大型建機を直接工場から船に積み荷できる利点を活かし、日立建機、コマツなどが新たに立地した。さらには大手自動車メーカーも進出を検討するなど大型製品の輸出拠点としての工場や関係施設の集積が始まっている。また、後で詳述する茨城空港もできた。
この「なめんなよ茨城県」の事例でもわかる通り、地域、民間、国家の共同プロジェクトによる産業クラスターの創出が、地方創生の1つの鍵となろう。
観光:民間の知恵を活用し、アクセスを整え、各地域の観光資源を最大限活用せよ!
「なめんなよ茨城県」の創生には、観光も1つの重要な柱となる。
観光客増の価値は、人口減少傾向にある地方にとって、非常に大きい。政府の調査によれば定住人口1名が減ることによって地域に生じる年間の消費額の穴は、日帰り観光客なら79人、一泊の観光客なら24人、外国人観光客なら7人で埋めることができるという。
滞在人口が増えることで域内消費が増え、投資を呼び込み、雇用が増える好循環をもたらす。各地方それぞれが、特色を生かして観光資源を最大限活用することが必要だ。
2010年に自衛隊百里基地との軍民共用で民間空港として開設された茨城空港は、航空自衛隊百里基地の民間共用化に伴い国内98番目の空港として2010年3月に開港した。
当初は維持することさえ危ぶむ声が多かったが、この4年半でターミナルには500万人が訪れ、LCC(格安航空会社)にとって好都合な低廉な利用料とコンパクトな構造がうけ、これまで、国内線では神戸、札幌、名古屋、福岡、那覇、米子へ就航。国際線でも上海、ソウル、ミャンマー便などの定期便を実現。茨城空港は、首都圏第3空港としての役割を確立し、空港経営は既に黒字に転換している。
行政としてのハード面での仕掛けが功を奏した格好だ。来年(2015年)からは常磐線の東京・品川駅への乗り入れも決まり好影響が期待される。
その茨城空港によるインバウンドの観光に加えて、今注目を集めているのが、茨城県大洗町だ。大洗が舞台のアニメ「ガールズ&パンツァー」と地元大洗町がコラボして、サッカーチームとのイベントなどを行っている。いままで外からの観光客など歩いていなかった商店街に多くの若者が押し寄せている。
この取り組みは行政によるものではなく、町の若手経営者有志によって勝手連的に発生した。ソフトとしての観光政策は行政が主導するのではなく、民間の知恵と情熱によってリードされるべきものである。ハードとソフト、官と民の役割分担とコラボレーションが重要だ。
一方、日本最大の観光資源を有すると言っていい京都市でも、「待っているだけ」で観光客が増えてきたわけではない。京都市の門川市長は、バスの停留所における無料Wi-Fiの提供、タクシーへの無料通訳、景観を整えるための看板規制の導入などを実施した。観光先進都市京都ですら、インバウンドを拡大させるために並々ならぬ創意工夫と努力を継続している。地方都市ならなおさらの努力が必要だ。
地方都市の観光政策は総じて的外れ、時代遅れのものが多い。そもそも観光に携わる人材のビジネスリテラシーの低さは広範に指摘されているところだ。国際化、IT化、コミュニケーションの変化への対応も必須だ。改革のポイントを2 点挙げておく。
1)行政設置の観光審議会等を解体し、新しい人材を巻き込み、新陳代謝を進めよ!
2)形がい化した市町村単位の観光協会を統合、規模化を進めよ!ベンチャー等による民間主導に切り替え、業者間の悪しき平等主義を排除して、地域観光産業の徹底的な肉体改造を!
観光立国に関しては、100の行動62 国土交通6<観光立国で日本の魅力を高め、訪日外国人3000万人を実現せよ!>において、日本ブランドの海外への発信、日本へのアクセスコスト低減のための空の自由化、ビザ発給要件の緩和、MICE(Meeting, Incentive Travel, Convention, Exhibition/Eventの頭文字を取った造語)の国際競争力強化、カジノを中心としたIR(Integrated Resort)の解禁などを提言した。まさに、地方創生の鍵の1つは、観光であろう。
行政によるハード面の仕掛けや勝手連的な民間の取組が相まって、茨城県への観光客数は2015年で5700万人(延べ人数)と、前年に比べても12%増、5年前に比べれば113%増となっている(国土交通省観光庁策定の「観光入込客統計に関する共通基準」に基づく観光客動態調査)。 |
農業:新規参入の自由化、規模化、流通の自由化を実現する農業の楽市楽座を!
「なめんなよ茨城県」が誇る産業の1つとして「農業」があげられる。茨城県は、農業産出額で北海道に次ぐ全国2位の地位を占めている。これは、メロン、栗、レンコンなどの高付加価値製品で収穫量全国1位となっていることが要因だ。大消費地である東京に近く、常磐道を中心とした物流の大動脈を保持していること、広大な関東平野のなかで多様な生産が可能であるといった地理的優位性を活かしている。
多くの地方でメインの産業である農業の成長産業化が地方創生の鍵となることは間違いない。農業はやり方次第で成長産業化することが可能だ。農業の成長産業化の成否は、岩盤規制である農政の規制改革を断行できるかどうかにかかっている。
100の行動82復興<「職」「町」「人」の面で新たな東北復興ビジョンを描け!>では、東北復興のための農業・漁業・林業の東北版「楽市楽座」を掲げたが、東北に限らず、農政の規制改革のキモは、以下3つと述べた。
1)新規参入の自由化→農地法改革による株式会社参入の完全自由化
2)規模化と効率化→耕作放棄地へのペナルティーや零細農家維持の補助金等の撤廃による農地の集約化
3)流通の自由化→農協分割、減反廃止による流通の自由化
などの抜本的な改革が必要だ。
「なめんなよ茨城県」では、新規参入の自由化、規模化、効率化については国に先駆け2013年から「茨城の畑地再生事業」に取り組み、公社が耕作放棄地と周辺農地を一括して借り上げ、規模化し新たな担い手に貸し付けている。農地中間管理機構による農地集約と併せて成果を生んでいる。流通については新たに開設されたジェトロ茨城県事務所とともに海外輸出支援がスタートした。
農業に関する詳細の行動は、100の行動44 農林水産1<「農業を成長産業に」新規参入・大規模化・効率化を促せ!>を参照願いたい。
筆者の義理の弟も、つくば市近郊で農業ベンチャーを起こした。とは言っても、現状は零細小作人として土地を借りて経営しているだけだ。だが、ゆくゆくは、大きな農業ベンチャーとして発展して欲しいと思う。
日本の農林水産物・食品の輸出額は、2015年は前年より21.8%多い7452億円となり、3年連続で過去最高を更新している。政府は「2020年に1兆円」としていた目標として掲げているが、日本産農産物、和食などのブランド価値のさらなる確立とマーケティング、販路確立、さらにはTPPへの参加などを進めればさらに高い目標の達成が可能となろう。 |
サービス産業:都市化率を上げサービス産業の生産性を上げよ!経営人材の育成強化を!
地方社会の維持、地域経済の再生を目指すに際して、日本のGDP全体の約70%を占めるサービス産業の競争力強化は不可欠だ。ポイントはコンパクトシティ化による生産性の向上と、経営人材の教育だ。
人口300万人の「なめんなよ茨城県」では、Jリーグのサッカーチームとして鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックの2チームを有している。これらサービス業が与える経済的インパクトも、実は無視できない。
一方、人口集積が足りないと、飲食業やクリーニング業、小売業などのサービス業は安定的な収益を上げることが難しい。地方のサービス産業が人口減少という厳しい現実の前で生産性を上げていくためには、人口集積によるコンパクトシティ化が鍵となる。日本は都市化率が低く、規模の小さい町がたくさん点在しているため、サービス業の生産性が低い。その結果雇用が生まれずに非効率なまま放置されることになっているわけだ。
人口減少が進む将来においてでも、都市化率を上げれば、都市への人口集中によって一定の市場規模が形成され、地域経済が活性化し、雇用も生まれる。真の地方創生は、国土の均衡ある発展ではなく、中核都市への人口集中と産業集積を促進し、選択と集中によってダイナミックに各地域拠点ごとの発展を目指すことだ。
また、サービス産業を中心に地方経済を支えている多くの経営者は家業を二代目、三代目として継いでいる人が少なくない。グロービスは震災後、仙台校を開設し地域に密着した復興リーダーの育成に努めてきた。また自治体等の要請により、広島県、岡山県、沖縄県などの地方都市へ授業のデリバリーも始めた。
筆者も各地に足を運びスピーチする機会を設けているが、実際に向き合ってみると、彼らはこれまで経営を学ぶ機会に恵まれていなかったことに気づく。「経営を学びたい」という強い意識を持った若い経営者は案外と多いのだ。彼らの思いこそ地域の財産である。
経営者の学びがビジネスを変え、視野を広くし、地域の経済を強くする。地域に眠る資源を活かしたベンチャーを創生するきっかけにもなり得るだろう。教育は地方再生の何よりも重要な取り組みの1つである。人材育成により活力がある地方都市が存続し、新たなイノベーションや雇用が生まれる源泉となる。まさに、アベノミクスの3本目の矢は、人材育成なのである。 詳細は、100の行動61 国土交通5<発想を転換し過疎化を肯定的に捉えよ!地方都市への集住を促進し、都市化率を上げる政策を!>を参照願いたい。
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