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Sep 20 / 2011
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知財戦略の推進を 100の行動12 経済6

初稿執筆日:2011年9月20日
第二稿執筆日:2015年4月5日

 2011年6月、「中国版新幹線、米で特許申請準備 日中紛争の火種に」という記事が日本経済新聞で掲載された。また同年8月にはグーグルによる、モトローラの携帯端末事業部門の高額な買収が話題になった。目的は、ハードでもソフトでもなくモトローラが所有している「特許・知財」だと言われている。この頃から我が国の知財戦略のあり方が課題として注目されるようになった。

 新幹線の事例でも分かる通り、日本は優れた技術や映画、音楽、アニメといったコンテンツを保有しているにもかかわらず、こうした知的資産ビジネスの国際競争力は総じて高くない。技術力やコンテンツ力は国際競争力の必要条件ではあるが、十分条件ではない。技術・コンテンツ産業のグローバル化を進めるには、こうした知的資産を活用する「知財戦略」=政策が不可欠である。

 スイスのIMD(経営開発国際研究所)の2009年度版国際競争力年鑑によると、日本の「科学的インフラ」は米国に次ぐ世界第2位であり研究・技術水準は高く評価されている。しかしながら、「産学間の知識移転」は第17位と低く、研究成果の「市場化」に失敗している。また、科学技術要覧や総務省によると、2008年の技術輸出額は日本が約1.8兆円であるのに対し米国は4倍近い約6.8兆円、コンテンツの収入額でも日本の海外収入比率が約4.3%(約0.6兆円)と低いのと対照的に、米国の海外収入比率は約17%(約8.5兆円)であり、日本のコンテンツ産業のグローバル化は立ち遅れている。

 さらに、2008年国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)での、国別の幹事国引受け数を見ると独国132件、米国128件、英国77件、仏国75件、日本 59件であり、日本は「フレームワーク作り」でもリーダーシップをとれていない。

 こうした視点から、政府が今後取り組むべき政策、企業が取るべき施策を、以下の通り提案する。基本的なキーワードは、「スピード向上」「国際化への対応」「インターネット時代への対応」「知財が生み出される環境整備」そして「人材育成」である。この5つを早急に実現することが望ましい。

特許の審査手続きの迅速化・効率化、審査請求制度の廃止を!【一歩前進】

 我が国の特許審査手続きが長期化していることは、知財戦略において国際競争力を高める上でのボトルネックである。審査が長引き、権利が不確定となれば、企業は開発技術を活かした事業展開を後ろ倒し、開発に投資した資本の回収が遅れる。各企業は戦略上、どの国で特許を申請することが最も得策なのかということを考え、技術を日本国外へ移転させるケースもあるだろう。この時間のコストについて、我々は真剣に考えなければならない。

 我が国の特許制度では、2つの時間に分けてこのコストを考えなければならない。それは①特許審査開始までの待ち時間と出願審査請求(一次審査)にかかる時間と、②審査開始から権利確定までの時間だ。このそれぞれをいかに短縮できるかがポイントとなる。

 特許審査開始までの待ち時間(①)は2010年時点で約28.7カ月であり、年を重ねるごとに悪化の一途にあった。その結果、企業は内部での検証もほどほどに「取り敢えず出願」をし、順番待ちをしながら実際の審査請求を行うかどうかを判断する事例が見受けられている。権利の行方が長期間にわたり未確定の出願が膨大な数にのぼることはとても健全な特許制度とは言えないはずである。 

 2011年9月に執筆した本稿の初稿では、特許審査に関する10年間の長期目標であった FA11(2013年度末までに一次審査通知期間(FA: First Action)を11カ月以内とする)の確実な実行を訴えた。特許庁は人員の増強や登録調査機関の先行調査の拡充などの策を講じて状況の改善を行い、目標の2013年にFA11は達成した。さらに、特許出願から早期の審査を可能とする早期審査申請制度を使った場合には平均約1.9カ月と、100の行動で提言した特許審査の迅速化が実現していることは高く評価できる。

 さらなる抜本的な改革としてはこの「出願審査請求」を廃止することだ。企業が発明を厳選して出願することで、特許庁の審査を速やかに終えるべきと考える。

 そのためには先行技術調査の民間外注を拡大するための登録調査機関への新規参入促進、重要技術分野での学術文献DB(特許と論文情報の統合検索を可能とする特許公報照会システム)を備えた特許電子図書館(IPDL)から2015年にリニューアルされた特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の機能強化などの必要な措置の実行を求める。

 出願審査から出願(①)を終えて、ようやく請求に基づく特許審査(②)となる。

 我が国の特許制度では出願後、3年以内に請求があって初めて特許を認めるかどうかの審査に入る。2012年時点の特許庁のデータによれば、申請してから権利を取得するまでの期間(②)は29.6カ月だ。ライバルの韓国が21.6カ月、中国が22.6カ月とスピードを上げているのに対して大きく水をあけられていることは問題だ。

 安倍政権は次なる目標として2023年までに審査期間を14カ月以内に短縮することを掲げ、「世界最速かつ最高品質の知財システムを構築したい」と宣言した。FA11同様に着実に実現し、産業競争力を高め、世界最高の知財立国を目指してもらいたい。

グローバル化への対応: 政府は国際連携による知財保護の強化・企業は国際標準の獲得を!

 厳しい国際競争の中で、日本の国富の源泉でもある知財の権利取得と保護の強化を図るには、外国の特許庁と協力連携した特許制度の国際共通化の推進と、特にアジア諸国における模倣品対策の強化が不可欠である。具体的には、主要国間での特許審査の迅速化、EPA交渉などを活用した知的財産制度の国際環境整備、各国の特許出願手続きの共通化・簡素化などを目指す「特許法条約」への早期加盟、2010年に大筋合意された 「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)早期発効、官民合同模倣品対策合同ミッションの派遣拡大などが求められる。

 今後、世界規模で大きな市場拡大が期待でき、日本が優れた技術を有する「環境・エネルギー分野」「医療・介護分野」、例えば、スマートグリッド、電気自動車、水関連技術、生活支援ロボット、鉄道インフラなどに選択と集中を行い、オール・ジャパン(産官学横断的)で、国際標準の獲得を推進すべきである。その際に、従来の公的な標準化機関で策定する「デジュール標準」のみに限定するのではなく、DVD規格などのように関心のある企業などが国際的なフォーラムを結成して策定する「フォーラム標準」も含めて、政府は総合的に国際標準化活動を支援することが求められる。

 知財のグローバル対応は、ここ数年でさらに加速度的にその必要性を増している。2015年3月のG1サミットでは、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が基調講演をしてくれたが、その中で山中教授は、iPS細胞の米国での特許審査が難航し、教授は特許侵害で米国で訴えられてもいるとの話を披露された。米国における特許審査の難航は、知財制度の国際共通化が遅れていることの証左であろう。

 この点、日本は、日本企業がアジア新興国において日本と同様の感覚で知的財産権を取得できる環境を整備するため、日本の審査官をアジア新興国知的財産庁へ相当規模で派遣する事業を進めているが、先進国や国際機関との人事交流を含め、拡大していくべきだ。

 各国の特許出願手続きの共通化・簡素化などを目指す「特許法条約」については、国内制度や特許システムへの影響が大きいことなどから2005年の同条約発効以降も日本は批准未定としてきたが、2013年にはアメリカも批准し、世界で32カ国が批准している。日本も必要な制度改正、システム改修を行い、むしろ日本が率先して特許手続きの世界共通化を進めるべきだ。

 偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)については、本稿の初稿の後、2012年に日本が最初の締約国となった。日本のほか欧米など約30カ国が署名国(日本、オーストラリア、カナダ、EU加盟22カ国、韓国、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、シンガポール、アメリカ)しているが、この協定の早期発効と、アジア、特に中国などへの参加拡大に向けて具体的な取組が必要だ。

インターネット時代に合わせた著作権制度の確立を!

 現行の著作権制度はユーザーの利便性を軽視し、技術革新の中で本来的に「縮小傾向にある既存市場」を過度に保護する内容となっている。このような「縮み志向」の法制度により、国内コンテンツ産業が総体として、じり貧になるだけでなく、iPadのような世界のユーザーをワクワクさせる新しい「プラットフォーム」が日本発で生まれない土壌になっているのではないだろうか。

 例えば、現行の著作権法では、紙媒体の書籍の購入者が書籍を自分の携帯情報端末で見て楽しむために、電子化の代行事業者(「自炊代行」)に書籍データのPDF化などを委託することに対して、「著者の了解を得ていない電子化作業は著作権侵害」といった主張さえ、できるような規定ぶりになっている。このような主張が1つの法解釈として大真面目になされるような現行法は、ユーザー軽視の法制度と言わざるを得ない。著作権法を所管する文化庁には猛省を求める。

 日本で検索エンジンが、著作権法改正で合法化されたのは、2010年になってからである。ユーザーの利便性を高める新サービスをなかなか認めない著作権法は早急に改める必要がある。インターネット時代に合わせた世界最先端の「フェアユース制度」(「公正な利用」と裁判官が判断すれば著作権侵害とはしない規定)を導入して、ユーザーの利便性を高めることが、世界的な競争力を持つコンテンツ産業が日本から生まれる土壌となる。

ベンチャー、中小企業、大学などから知的財産が大量に産み出される環境を作れ!

 上述の通り、日本が新たな経済成長の原動力を創出し、国際競争力を強化して、期待成長率を高めるには、「スピード向上」「国際化への対応」そして、「インターネット時代への対応」が不可欠である。そのためにも、ベンチャー・中小企業・大学などで、知的財産の重要性を認識させることが重要になろう。

 今後は、知財マネジメントに関する多様な相談を一元的に受け付けられるワンストップ相談窓口の整備、既存の大学知財本部・TLOの再編・強化、公的資金による研究成果(論文および科学データ)のオープンアクセスの確保などを通して、「知財」に対する意識を高めることが重要になろう。

 大学の特許権保有件数は、ここ数年増加傾向にあるが、その実施件数は特許保有件数の約3割に留まっており、低調だ。アメリカに比べると、産学連携による製品化件数は約4倍、ライセンス収入やベンチャー起業件数は10倍以上の開きがある。今年3月のG1サミットには、ロボティクスの特許から介護ロボットなどサイボーグ型ロボットのベンチャーを創設した筑波大学の山海嘉之教授や、東大発・ミドリムシベンチャーとして有名な株式会社ユーグレナの出雲充氏も参加したが、大学やベンチャーから知財が大量に産み出され、それが新たな産業をつくるサイクルを生み出す必要があろう。

 日本の大学にはすでに優れた研究開発成果が存在している。上記の出雲氏のミドリムシの技術に関しても、東大が経産省などと協力して長期にわたって研究していた成果を活用したものだ。そういった大学にある「知」をイノベーションにつなげ、事業化することが重要であり、そのために、大学とベンチャーとの共同研究や、大学の「知」をベンチャーの技術に移転するなど、大学と中小・ベンチャーの連携を促す取組を進めるべきだ。

 また、中小・ベンチャー企業においては、経営資源不足から大企業に比べて知財マネジメントや知財人材が不十分なことが多い。中小・ベンチャーが持つ優れた技術を海外展開し、グローバルな競争に耐えうるようにするため、知財活動に対するインセンティブの強化や、知財の取得、海外展開などに関する支援体制の強化などが必要だ。

グローバルに対応できる知財人材の育成強化を!

 筑波大学の山海教授は、ロボットスーツ「HAL」の国際認証取得の過程で、ISO国際規格策定を主導し、国際認証の取得に成功したという。日本大学や企業が研究・開発した技術をグローバルに展開するためには、山海教授のように、国際知財交渉を主導し、国際標準や知的財産を戦略的に活用できる、グローバルな知財人材を数多く育成することが必要だ。

 諸外国では、政府機関が中心となって知財人財育成をはかっている。例えば米国特許庁では、国際知財研修院(Global Intellectual Property Academy; GIPA)で、 海外の政府関係者、国内の中小企業や政府関係者にも知財教育を行っている。また、欧州特許庁でも、欧州特許アカデミー(European Patent Academy: EPA)において加盟国や大学、企業、裁判官などを対象とした知財教育・トレーニングを実施している。このほか、中国や韓国でも知財経営者向け研修が行われている。

 グローバルな知財競争が激しくなる中において、日本でも、政府が直接関与して積極的に知財人財育成を行う必要があろう。大学や民間企業と協力して、諸外国の知財情報、法律的な知識、事業戦略と連携した知財戦略に関する知見やノウハウを提供できる教育・研修の仕組みを作り、グローバルな知財競争に打ち勝てる知財人材、知財マネジメント人材の育成を急ぐべきだ。

 日本の優れた技術やコンテンツに相応しい、スピーディな特許制度、国際化やインターネット時代に適した政府や企業の変化適応努力を期待したい。これからの世界はますます、知財(頭脳)の勝負になるであろう。日本の知財面での国際競争力を高くして、この激動の時代に栄え続ける国でありたいものである。そのためには、頭脳を磨き、守り、世界の最先端に躍り出るとの意識改革とこれを支える知財戦略・制度が重要になる。


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