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Dec 19 / 2011
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コミュニケーションとネットワーク・パワー 100の行動22 外務8

初稿執筆日:2011年12月19日
第二稿執筆日:2015年5月26日

「コミュニケーションは、パワーであり武器である。コミュニケーションは、極端に言えば人をも殺せる強力な武器である。日本人はその認識があまりにも低い」。ホンダで本田宗一郎氏に薫陶を受け、現在戦略コミュニケーションコンサルタントとして活躍する田中慎一氏は、そう訴えかける。

 たとえ、どんな重要な事項であっても、意思決定を下すのは、感情や意志を持った人間である。その人間に影響を与える1つのパワーがコミュニケーションである。そして、もう1つのパワーが人的ネットワークである。

 国際社会では、軍事力・経済力等のハードパワー、文化力・教育力・観光力等のソフトパワーなどに加えて、国家の情報発信力とも言うべきコミュニケーション・パワーと、国際的人間関係から生まれるネットワーク・パワーも、国力を構成する重要な要素である。それらを強化することは、国際社会での発言力と影響力を高め、外交を通しての国益実現を容易にすることを意味する。

 しかしながら、日本は、グローバリゼーションの流れに乗り遅れ、世界への情報発信が欧米諸国のみならず、同じアジアの中国、韓国と比べても、後れを取っている。

 一例を上げると、2006年当時の国際放送の受信国数は、米国のCNN、英国のBBCワールド、仏国のTV5はそれぞれ100カ国以上、中国・CCTV は78カ国、韓国・アリランTV(韓国政府により設立された財団法人アリラン国際放送)は63カ国などに対し、NHKワールドテレビは、わずか12カ国で あった。一方で、中国・韓国は自国語・英語以外の国際放送の多言語化にも継続して取り組んでいる(出典:読売新聞「論点」日本財団・笹川陽平会長)。今、発信力というコミュニケーション・パワーが問われているのだ。

 一方、民主党政権下では、普天間基地移設問題、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件などの緊急かつ重大な外交案件の際に、問題解決のための外交チャネルの脆弱性が露呈した。日本の良き理解者であった知日派・親日派は、世代交代などにより先細りしつつあり、外交でのロビー活動力の低下が懸念されている。

 このような日本のコミュニケーションに対する意識の低さや、国際人的ネットワークの脆弱さが、日本の存在感や発言力を低下させていることは、容易に理解できる。今や企業・個人を含む様々な活動は、海外との関わりなしには成立できない。コミュニケーションと人的ネットワークは、いわば外交のインフラになりつつあるのだ。

 その観点に従い、今後の取り組むべき「行動」について、以下の通り、提案をしたい。

官邸の海外広報戦略機能の強化を!【一歩前進】

 現在、海外広報を担当する部署は、内閣広報室、外務省大臣官房、その他各省庁の広報担当部署など各省庁に散らばり、スピーディかつ戦略的な広報活動 が行いにくい体制である。戦略的な海外広報の展開には、政府として一体的な政策対応が不可欠である。その全体調整を図る官邸の海外広報戦略機能の強化が求められる。

 その総理補佐官を支えるスタッフとして、民間企業の海外広報担当者や海外PR会社のプロフェッショナル人材などを、積極的に受け入れることをさらに推し進めることが重要である。2011年現在、内閣の広報活動は、古川元久氏が官房副長官を務めた時代に、外務省から四方敬之氏、民間から加治慶光氏を招聘して体制を整えたが、十分ではなかった。

 しかし、対外広報に関しては、2012年12月に成立した安倍政権では、世耕官房副長官が中心となり、本格的に強化が進められている。2013年から官邸には「対外広報戦略企画チーム」が設置され、チームリーダーに世耕官房副長官が就任した。国際広報を重視する安倍政権の特徴は、

(1)官邸の対外広報戦略企画チームを司令塔にした外務省、経産省、国交省、内閣官房、内閣府、その他各省庁の連携の強化と戦略的・一体的な対外広報戦略を志向

(2)官邸広報室の人員・予算の大幅な強化

(3)総理自らの情報発信を重視し、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアも積極的に活用

といったことが挙げられる。安倍政権では、初めて、常設のスピーチライターを民間から招聘していることも特徴的だ。官邸を司令塔として、主要国のメディアや世論の動向を集め、当該国の世論を高めるアクションを取ることが重要だ。

重要国際会議で日本の声を届けよ!【一歩前進】

 重要な国際会議の場で、インパクトのある知的発信を行い、ネットワークを築くことにより、日本の声を国際社会に反映させることが、今、強く求められている。

 特に、世界有数の知的プラットフォームであり、国際政治経済に大きな影響力を有する、世界経済フォーラム(WEF)のダボス会議や地域会議に、日本の政府関係者・企業経営者・オピニオンリーダーなどが積極的に参加、発言し、ネットワークを創ることは、国際世論を形成する上で非常に重要である。世界のオピニオンは、ダボス会議の場で組成されていると言っても過言ではない。その場で登壇するとともに、フロアから発言することにより、世界の世論を変えられるのである。参加資格を持つ人は、積極的に発言をすることが望まれる。

 近年、与野党国会議員による「ダボス国会議員連盟」が結成され、森喜朗内閣以降、歴代総理の多くがダボス会議に出席するようになった。この点は、高く評価できる。今年(2011年)より、官邸が主導して、サマーダボスやダボス会議で、「ジャパンナイト」が開催されることは、日本の存在感を高め、かつ日本の良さを発信する良い機会となろう。

 過去5年連続で「サマーダボス」は中国(大連・天津)で開催され、中国政府は同会議を国家を挙げて支援している。日本もこの様な国際会議開催の誘致に取り組むことが求められる。

 本稿の初稿を書き下ろした2011年以降、ダボス会議での日本のプレゼンスを強めることの重要性を100の行動でも重ねて強調してきた。その結果、2015年現在、ダボスへの日本の政治リーダーの関わり方も相当に変化してきたと感じる。

 前述のジャパンナイトは、2015年現在、別名“寿司ナイト”とも呼ばれ、ダボス会議参加者で知らぬ者はいない人気イベントになっている。和食、日本酒、焼酎、日本製のビールやウィスキーなどが振る舞われ、会場は毎回、立錐の余地もないほどの混雑となる。

 2015年のダボスには、下村博文・文部科学大臣、塩崎恭久・厚生労働大臣、宮沢洋一・経済産業大臣をはじめ、錚々たる人々が日本から参加した。この場で、翌2016年に「スポーツ・文化ダボス」を日本に招致することも決まった。

 世界を動かしているリーダーは、ほぼ皆この時期にダボスに結集する。今後もさらにダボスをはじめとした国際舞台での日本の存在感を高めていくことが重要だ。

国際放送の充実を!【済み】

 中国政府はCCTVを活用し、英語放送に加え、スペイン語とフランス語放送を開始し、さらに2009年にはアラビア語放送とロシア語放送までを実施している。その結果、国連での公用語6か国語全てにおいて国際放送を行う体制を構築している。また、中国国際ラジオ(CRI)では、米国の大手IT企業アップル社の携帯電話「iPhone」のユーザーを対象にニュースの提供を行っている。

 一方、日本の国際放送であるNHKワールドテレビは、前述の通り、配信されている国数が余りにも少なかった。本稿の初稿を書き下ろした2011年、今後「日本版CNN」のように数多くの国で放映・配信されるべく、英語でのさらなる発信強化を行う必要があると指摘した。

 その後、2014年から総務省は、「NHK海外情報発信強化に関する検討会」を設置して検討を進め、2015年1月には中間報告を取りまとめた。海外での日本のプレゼンスを高め、その魅力や考え方を広めて日本に対する理解を深めてもらう観点等から、外国人向けテレビ国際放送(NHKワールドTV)の一層の充実強化を図るための実施体制、財源を強化し、放送コンテンツの海外展開に向けた取組と相まった海外情報発信強化を進めることを決めた。現在(2015年)では、NHKワールドTVは、放送衛星やケーブル局などを通じて約150の国や地域で、1日24時間視聴可能となっている。政府の努力を率直に評価したい。

総理大臣のグローバル・アドバイザリー・グループの設置を!【一歩前進】

 国際的に影響力のある企業経営者・学識者・オピニオンリーダーなどをリストアップし、総理大臣のアドバイザリー・グループを設置するのも一案であろう。国際情勢や海外諸国での政策動向について定期的に意見交換することにより、彼らの知見を政策立案に活用できると、海外の視点に即した意思決定ができることになろう。

 上記アドバイザリー・グループを活用することで、知日派・親日派を育成し、日本政府の立場と政策について正しい理解を促すことができよう。さらに、その内容を海外で発信してもらうことも期待できよう。

 2015年は戦後70周年の節目の年であり、海外に発信するメッセージも重要となるが、安倍政権では、首相が夏に発表する戦後70年談話に関して、有識者を集め、「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会」を設置し、議論を進めている。座長に日本郵政社長の西室泰三氏、座長代理に国際大学学長の北岡伸一氏を据え、16人のメンバーには筆者自身も連なっている。

 様々なテーマごとにアドバイザリー・グループをつくり、ゆくゆくは海外人材にもそのネットワークを広げ、総理大臣を支える体制と知日派・親日派の拡大につなげていくことが重要だ。

在外公館の大使・総領事による現地での積極的な発信を!

 在外公館の大使・総領事は、まさに「日本政府の代表者」であり、その行動や発言は現地で大きな影響力を持っている。大使・総領事には、現地での講演活動や、現地メディアへの寄稿・出演、現地語でのニュースレターの発行、各種日本紹介イベントの開催などを通じて、さらなる広報活動の強化を図るべきである。ジョン・ルース在日米国大使がツイッター上で、日英双方の言語で呟いているのは模範例となろう。

 また、上記の広報活動における効果分析をその都度行うとともに、現地での対日世論動向についても定点観測を行い、それらの結果を広報活動全体にフィードバックさせることも実施したい。特に、現地メディアや有識者による、日本についての事実誤認による情報紹介や論評などに対しては、速やかにその場で反論を行うなどの広報対応を図るべきであろう。

 また大使の起用に関しても、米国同様に民間大使を増やすことが望ましい。2010年には中国大使に丹羽宇一郎氏が選出された。中国のように戦略的に重要な隣国で、かつ外交が難しい国での民間大使の起用は、多少の問題はあるかもしれない。米国が親米国である日本の大使に民間人を起用したように、日本もタイ・シンガポール等の親日国で民間大使を起用することが、本来の望ましい進め方であろう。

 今まで見て来たように、外交には、パワーが必要である。パワーの源泉としては、以下7つに分類されよう。

(1)ハードパワー(防衛力・経済力・技術力・資源確保力など)

(2)ソフトパワー(文化力・教育力・観光力など)

(3)国際機関におけるレジティメート・パワー(国連の安保会議、IMF等における発言力、人的登用力等)

(4)多国間協力・連携のアライアンス・パワー(APEC、上海協力機構、日米豪印連携の枠組み策定等)

(5)政府開発援助や青年海外協力隊等のODAパワー

(6)対外情報発信力等のコミュニケーション・パワー

(7)官民の国際人的ネットワーク・パワー(国際会議における人的ネットワーク等)

 外交力を高めるのは、一朝一夕ではいかない。一つひとつのパワーを高めるための普段の努力の積み重ねにより、10年、数十年経過して、やっとパワーとして結実するのである。今(2011年)、「坂の上の雲」がNHKで放映されている。「小さな国」であっても、維新後30年強経った後には、大国ロシアと戦えるまでになったのだ。

 今の日本は、人口減、経済力の低下等、不安な点が多い。新興国の台頭も著しい。だからこそ、地道に一つひとつのパワーを高め、外交を通して、自らの発言力を高める努力が必要なのである。その小さな一つひとつは、国民である僕らにもできることである。一歩一歩行動して、前に進もうではないか。


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