防衛力の選択と集中を!100の行動24 防衛2
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初稿執筆日:2013年6月14日
第二稿執筆日:2015年6月3日
平成25年度予算において、防衛関係費は対前年度比400億円(0.8%)増の4兆7538億円と、実に11年振りの増額となった。尖閣諸島周辺で活動を活発化させている中国に対応するためであり、当然の増額である。 いわゆる防衛費GNP1%枠の政策が1986年の中曽根内閣の時に撤廃された後も、事実上、日本の防衛予算はGDP比で1%程度以下に抑えられて来た。一方で、同じく平成25年度予算における社会保障関係費は29兆1224億円で、一般歳出の約三分の一を占める。防衛費の6倍ものお金が社会保障関係費に使われているのだ。
中国や北朝鮮が容赦なく日本の国益を侵害しようとしている現実の中で、国の防衛に回す予算は事実上のGDPキャップがはめられて抑制される一方で、社会保障については上限が設けられず国家予算の三分の一が充てられている。いくら国民が年金や介護を受けることができても、有事が発生すれば国民生活は破壊されてしまうのだ。
日本周辺の情勢が厳しさを増す中で、日本の防衛態勢は決して万全であるとは言えない。隊員の高齢化もあいまって防衛予算のうち約45%が人件費で占められ、部隊の維持管理費、防衛装備品(兵器)の維持整備と更新で防衛予算はほぼ使い切られてしまい、世界の最新技術を取り入れた最新装備品の調達が遅れているのが現状である。
防衛予算を青天井に増やす事ができれば問題は解決だが、非常に厳しい国家財政の状況下において、防衛予算を無制限に増やすことができないのも事実だろう。しかし、限られた制約の中でも日本が自国を自分で守るためにできることはあるはずである。
部隊配置の聖域なき見直しを!【一歩前進】
尖閣諸島における昨今の挑発事案が表面化するはるか以前から、東シナ海における中国海軍の動きは活発化していた。それにも関わらず、沖縄県の南西諸島方面の日本の防衛力は手薄な状況のまま放置され、最も国益を犯される危険性の高い地域が、自衛隊の常駐部隊が存在しない空白地域として放置されてしまっている。
なぜこのようなことが続いているのか。外交上の問題を除けば、これは日本が戦後取ってきた「基盤的防衛力構想」のもとに、重要度の低い部隊や装備が温存されてきたためである。すなわち、同構想は、本格的な陸上侵攻に備えて、部隊や兵器の「量」を重視して、国土に均等に部隊を配置する考え方だ。しかし、現在、日本が直面する防衛上のリスクは変化している。ソ連のような大国が陸上侵攻してくるようなことは現代において想定しづらい。一方で、明白な戦争ではなく、尖閣諸島の事案のような、主権や資源について平時と有事の中間領域のような紛争を防ぐこと、そして、弾道ミサイルの脅威から国土を守ること等が、今私たちが直面しているリスクなのだ。
その点で、2010年12月の「防衛計画の大綱(2011年度以降に係る防衛計画の大綱)」において基盤的防衛力構想からの脱却が明確化されたことは評価できよう。
今後は、聖域なく大胆に部隊や装備品の選択と集中を行い、旧式装備の戦車や火砲およびその部隊の大幅な削減をすすめるとともに、新たな重要分野、すなわち南西方面における島嶼防衛、弾道ミサイル防衛、ISR(intelligence, surveillance, reconnaissance)すなわち警戒監視偵察能力の強化といった分野に資源と部隊を大胆にシフトすべきである。
部隊配置の見直しに関しては、100の行動で提言して以降、かなりの前進があった。政府の努力を率直に評価したい。中国による脅威に対応するため、陸上自衛隊の沿岸監視部隊を与那国島に配備し、平素からの常続監視に必要な態勢を整備するとともに、自衛隊配備の空白地域となっていた島嶼部にも陸上自衛隊警備部隊を初めて配備する方針を政府は決定した。 鹿児島県奄美大島に配備する陸上自衛隊部隊は約550人規模 、2018年度までの配備を目指しており、さらに宮古島にも2030年度末までに約600人の隊員を擁する部隊配備を完了させる計画だ。部隊には地対艦ミサイル(SSM)と地対空ミサイル(SAM)を置き、中国を念頭に南西諸島の島嶼防衛が強化される。引き続き聖域なき部隊および装備品の再編を進めてほしい。 |
武器輸出三原則の緩和と防衛産業・技術力の強化を!【一歩前進】
日本の防衛上の大きなリスクのひとつは、防衛技術と防衛産業が弱体化している点である。
例えば、日本の自衛隊が保有するイージス艦は、本体部分のような比較的技術レベルの高くない部分は国産だが、レーダー部分など最先端のコア技術は米国とのFMS契約(米国が同盟国に対して防衛装備品を有償供与する契約)に基づいて調達されており、技術はブラックボックス化されている。戦闘機もFMS調達であり、コア技術はブラックボックスだ。
このことは何を意味するのか。米国との関係が未来永劫盤石であればよいが、日本は自国を守る技術を他国に依存せざるを得ないという極めて大きなリスクを孕んでいるのだ。
なぜ日本の防衛技術は弱体化しているのか。それは、武器輸出三原則による実質的な武器禁輸政策が継続されてきたために、世界的に防衛産業の巨大化が進み、共同開発が世界の潮流となってきている中、日本の装備品開発の基盤となる産業群が世界から取り残されているためだ。同時に、防衛予算が削減され続けてきたため、国内防衛産業は、国外のマーケットには出られず、国内マーケットも縮小していく、という二重の苦しみでビジネスとして成り立たず、撤退する企業が続出しているのだ。
武器輸出三原則の見直しは、この「100の行動」の外務省の部で以前提言した。野田政権時に武器輸出三原則の緩和を明確化したことは評価したい。防衛力は産業技術まで含めたピラミッドである。今後は、官民連携して積極的に国際共同開発に打って出ることで産業技術基盤を育てるべきである。
加えて、防衛産業を維持発展させるため可能な限り防衛予算を確保するとともに、防衛技術の重点投資分野を国家として明確化し、捨てる技術と育てる技術をクリアにして、国内産業に方向性を示すことが重要ではないか。こうした努力によって、将来的には自国を守る防衛技術を自国の産業で保有することを目指すべきである。他国と比して優位な技術を保有することは、安全保障上の優位性に直結する。
武器輸出三原則の見直しに関しては、政府は2014年4月に防衛装備の海外移転に関して、武器輸出三原則等に代わる新たな原則として「防衛装備移転三原則」を策定し、 (1)紛争当事国や国際条約違反国など移転を禁止する場合の明確化 (2)平和貢献や我が国の安全保障に資する場合など移転を認め得る場合の限定と厳格審査 (3)目的外使用および第三国移転に係る適正管理の確保 を要件として、武器輸出解禁に舵を切った。 この結果、同年7月には実際に迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の米国への部品輸出と、F-35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究がスタートしている。 こうした武器の輸出解禁や国際共同開発は、我が国の防衛産業の基盤強化(生産・開発コストの低下、技術力向上、開発リスク分散等)、ひいては防衛力の裾野を拡大させるものだ。引き続き、必要な予算も確保しつつ、防衛産業・防衛技術の基盤強化を目指してほしい。 |
敵基地攻撃能力の保有を!
戦後の日本がとってきた「基盤的防衛力」構想のもとでは、自衛隊の防衛力の役割は「侵略の拒否」に限定されてきたため、たとえば敵国のミサイル基地を破壊するための敵基地攻撃能力は不要とされてきた。このため、日本の航空自衛隊は隣国まで飛行して帰ってくる能力すらないのが実態である。
しかし、例えば北朝鮮が本当にミサイルを発射した場合、最も確実に日本の国益を守る方法は、敵のミサイル基地を破壊することである。軍事技術の発展によって事態生起までの猶予時間が非常に短縮化している中で、限られた防衛予算で確実に国を守ることを考えれば、敵基地攻撃能力を保持すべきである。
敵基地攻撃能力に関しては、防衛省と米国防総省で、担当者レベルで自衛隊による能力保有の是非や可能性について研究されている、と言われる。「と言われる」と記述したのは、正確なことは当然ながらオープンになっていないため、分からないからだ。2015年現在、安倍総理は「敵基地攻撃の装備体系は保有していないし、集団的自衛権の行使としての敵基地攻撃は想定していない」と国会で答弁している。 一方で、良いニュースは、航空自衛隊が次期主力戦闘機にF-35を採用したことだ。予定通りに進めば2015年7月から実戦配備され、合計42機配備される予定だ。 F-35はステルス性能や高度な電子戦能力を備えた「第5世代」の次世代戦闘機で、戦闘行動半径が北朝鮮や中国、ロシアも射程に入る約1100キロに及び、射程距離約370キロの長距離誘導空対地ミサイルJASSMも将来的にはF-35に搭載予定であり、戦闘機の能力面では敵基地攻撃が可能になる。 ただし、戦闘機を持っていれば、敵基地攻撃が可能になるというような単純な話ではない。事前に敵領内のレーダー網や迎撃態勢を無力化し、制空権を確保する能力や、さらには4.で後述するようなミサイル発射の兆候をつかみ発射装置の位置を特定する衛星や無人偵察機などの情報収集能力も必要となる。 すべてを揃えるのはコスト的にも時間的にも簡単ではないが、日本が完全な敵基地攻撃能力を構築しなくても、一部でも保有し、米国と日本が一緒に運用できるようになれば、防衛力は向上し、日本の発言力も高まるはずだ。 |
米軍に依存しない情報収集能力を!
日本の防衛上の大きなリスクとして、情報収集能力を米軍に依存していることも挙げられる。ミサイル防衛において最初の発射事実を米国の早期警戒衛星からの情報に依存せざるを得ない現状や、高解像度の警戒衛星を持たないために、米国に情報面で依存している現状は日本の安全保障上のリスクであり、外交面でも日本の弱点となっている。
現在、自衛隊は、航空自衛隊レーダーサイト網による日本周辺の上空監視、海上自衛隊哨戒機による周辺海域航行船舶の状況監視等の情報収集を行っているが、防衛力の選択と集中を進めて、このようなISR(警戒監視偵察)能力を徹底的に強化することが必要だ。警戒衛星や偵察衛星を自国で保有し、日本の情報優位を確立すべきである。次の「行動」にて詳述するが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と防衛省との連携をもっと密にとることが重要になろう。
情報収集能力の保有に関しては、さらなる努力が必要だ。 内閣官房が運営する情報収集衛星は、設計寿命の到来や故障などで運用体制が整っていなかったが、2015年3月に光学5号機の打ち上げ・軌道への投入に成功し、合計4機体制が整い、地球上のどこでも1日1回撮影できる本格運用体制が整った。しかし、最新の光学5号機でも、日本の情報収集衛星としては過去最高の解像力41センチだが、最新の商業衛星は解像度30センチであり、それに劣る。米軍の偵察衛星は解像力10センチかそれ以上とみられており、はるかに上回る。 政府は独自の情報収集能力の保有の重要性を改めて認識し、努力を続けてほしい。 |
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