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Jun 28 / 2013
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安全保障政策の司令塔を!100の行動26 防衛4

初稿執筆日:2013年6月28日

第二稿執筆日:2015年6月5日

 これまで、防衛に関する「行動」について提言をしてきた。普通の国として自国を守るための制度設計、厳しい財政制約の中で強靭な防衛力を保持するための防衛力の選択と集中、宇宙やサイバーなど最新分野への備えといった3つの「行動」だ。

 これまで論じてきたように、世界の安全保障環境は変化し、いかなる国家も一国のみで平和を維持することは不可能な時代となった。さらに、日本の周辺環境は、いつ暴走するか分からない北朝鮮、海洋権益の拡大を虎視眈々と狙う中国という不安定要因を抱えている。現時点において、私たちは日米同盟に依存して国の防衛を行っているが、日米同盟が日本の安全をこれまで通り担保するかどうかを過信することはできない。

 私たちは現実を直視して、自分の国を自分で守る能力の保持を目指しながら、責任ある普通の国家として、国際貢献を積極的に果たして行かなければならない。しかしながら、現実に国の安全保障の最高責任者である内閣総理大臣を的確にサポートする体制が整っているとは言えない。

 そのため、防衛に関する「行動」の最後に、安全保障の体制と日本が目指すべき安全保障上の目標について提言したい。  

NSC(国家安全保障会議)の創設を!【済み】

 米国をはじめ多くの国ではNSCを設置している。もちろん、日本にも官邸を中心とした安全保障体制が存在する。内閣総理大臣を長として関係閣僚が参加して安全保障上の情報共有、意思決定を行う安全保障会議である。内閣危機管理監が中心となって内閣総理大臣を補佐する危機管理体制で、有事の際には官房長官を委員長とする事態対処専門委員会が置かれ、安全保障会議を補佐する体制となっている。

 しかし、米国等のNSCと大きく異なるのは、日本の安全保障体制は、専門家を常置して最高責任者を補佐するシステムになっていない点と、国家としての安全保障戦略を策定する体制にはなっていない点である。

 このために、日本においては外交と防衛が縦割り行政の下に分断され、防衛に関する諸計画は外交政策とは無関係に防衛省によって描かれてきてしまったのだ。本来、外交は防衛と一体であり、資源安保、食料安保、環境安保といった他の分野の安全保障とあわせた総合的な安全保障政策が必要だ。

 このため、米国型のNSCを早急に設置し、官邸に総合的な安全保障・危機管理に関する一元化した司令塔を作り、そこに専門家を集結させ、内閣総理大臣を補佐する体制を作る必要がある。内閣総理大臣が安全保障の責任者として充分な知識と情報をもって職務に当たれるようにするとともに、専門家のサポートのもとに官邸主導で縦割り行政の論理を離れた総合的な安全保障戦略を策定し、対外的にも発信しなければならない。

 2013年12月政府は「国家安全保障会議(NSC)」を設置し、同会議の事務局として内閣官房に「国家安全保障局」を置き、約70名の体制でスタートした。国家安全保障局の初代事務局長には外務事務次官OBの谷内氏が就任し、同局は省庁間の安全保障政策の調整、外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁、経済産業省、国土交通省、内閣情報調査室などの各省庁の情報コミュニティへ情報要求を行い、各省庁は国家安全保障局に対する報告義務を負う体制が整った。

 今後、専門家を国家安全保障局に集結するとともに、2.で後述しているようなインテリジェンス機能の強化を進めて適切なインテリジェンスサイクルを稼働させ、総理大臣をサポートする体制を固めていってほしい。

インテリジェンス機能の強化を!

  安全保障に関わる政策判断を支える重要な基盤はインテリジェンスである。具体的に政府がどこまで諜報活動を行っているかが公表されていないのは当然だが、インテリジェンスに関する司令塔がないために、防衛省、警察、内閣官房、外務省による縦割りの弊害が生じているのは事実だ。

 これまで論じてきたような宇宙やサイバー空間の監視情報、さらにヒューミント(いわゆるスパイによる諜報活動)の強化を含めて、情報収集能力の強化が必要である。加えて、縦割りの弊害を克服して、政府全体の情報を一元的に集約して分析するオール・ソース・アナリシスを強化する必要がある。

  そのために、情報・安全保障担当の政治家(たとえば官房副長官や首相補佐官)を置き、その下にインテリジェンスサイクルが効果的に稼働する体制を作ることが必要だ。

 インテリジェンスサイクルで重要なのは、情報を受け取る側の能力である。インテリジェンスは、発注するカスタマーサイド(政治サイド)のニーズが効果的なものでなければ、いかに情報サイドが有能でも機能しない。例えば、これまでの日本では、情報部門は、内閣を組織する政治家の対抗馬のスキャンダル情報の収集を行ってきたというようなことも事実かもしれないのだ。インテリジェンスを専門的に担当する政治家を置き、国家安全保障に専念させる体制作りが必要である。  

米国のみへの依存からの脱却を!

  日米同盟が日本の防衛・安全保障上最重要であることは言うまでもない。しかし、日米関係が今後も未来永劫盤石であると過信することはできず、私たちは「保険」をかけておく必要があろう。それは、他の友好国との関係を強化しておくことだ。今の日米関係は、米国という「夫」には同盟国という「妻」が何人もいるが、「妻」である日本にとっては「夫」ただ1人。「夫」に愛想を尽かされたら途方に暮れるしかないと例えたら言い過ぎだろうか。少なくとも、イコール・パートナーになるためには、こちら側も他のパートナーを増やしておくことが、日米間における交渉力を上げることにつながるのも事実ではないだろうか。

 そのため、親米国(同盟国)・親日国であり、共通の価値観と国益を有する豪州や韓国との防衛協力や合同軍事演習の強化、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム、インドなどアジア各国との防衛交流の活性化を進めることが重要だ。

 近年、防衛省ではこれら諸国との防衛協力を積極的に進めている。豪州とは、豪海軍が主催する多国間海上共同訓練「カカドゥ」への海上自衛隊の参加、さらに2013年には日本近海において日豪共同訓練を実施している。韓国とは、日米韓3カ国の共同演習が中心であり、2013年には九州西方海域における捜索・救難などにかかる日米韓共同訓練や、アデン湾における海賊対処訓練が行われている。

 加えて、東南アジア各国が参加する多国間軍事演習への自衛隊の参加も拡大しつつある。米国、タイ、シンガポール、インドネシア、韓国、マレーシア、中国及びインドが参加する多国間合同訓練コブラゴールド(海賊対処行動、在外邦人等輸送等に係る統合運用能力の維持・向上を図る訓練)、東南アジア諸国など29カ国が参加する多国間共同訓練GPOI(Global Peace Operations Initiative)キャップストーン演習(自衛隊の国際平和維持活動に必要な基礎的能力および統合運用能力の向上を図る訓練)、ASEAN諸国プラスアルファで国際緊急援助活動等にかかる各種運用能力の維持・向上を図る訓練である拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)への参加などが継続されている。

 こうした努力を継続して行っていくことが重要だ。

多国間防衛協力を日本がリードせよ!

  日本の石油タンカーが通過する中東から日本までのシーレーンの安全や東アジア地域の安定は、これまで米国が中心になって支えてきた。しかし、米国の力が相対的に低下している中において、日本はそれらの国際公共財を維持するため、多国間防衛協力の場を自らリードしていくことが必要だ。アジアでは、地域的安全保障枠組みであるARF(ASEAN Regional Forum)が、災害救援実動演習を実施するなど具体的協力の段階への進化を始めている。日本もこうした協力に積極的に参加し、多国間防衛協力をリードしていかなければならない。

 防衛省では、1996年から開始されたARF参加国との局長・将官級会合である東京ディフェンス・フォーラムや、2008年から始めたASEAN各国との防衛次官級会合などの主催をするといった努力を継続している。これらの既存の会議体も活用して、海賊対処・シーレーンの安全確保レジームの強化といった日本の国益に直結する分野や、東日本大震災における自衛隊の経験を活用した大規模災害に対する国際協力の枠組み強化といった分野で、ARFの実効性向上を日本がリードして進めていくことが重要だ。

日米同盟の真の意味での強化を!【一歩前進】

  日米同盟は日本にとって最も重要な二国間関係であり、日米両国政府は首脳会談や、外務大臣と防衛大臣による「2プラス2」の際には常に「日米同盟を強化・深化する」と声明を発表しているが、真の意味での日米同盟の強化とは、同盟における「日本」の役割を強化することである。

 日米安保条約における、米国には日本を防衛する義務があり、日本には米国を守る義務がないという片務的な義務関係の上に、これまで日本は米国の能力に依存することで防衛上のいくつかの重要な分野において自らの負担を避けてきた。しかし、日米同盟を強化し、米国のイコール・パートナーとして、日本の安全保障・外交力を高めるためには、それらの能力を自ら保有することが重要である。

 これまで提言してきたような、自衛隊の情報収集能力の強化による情報面での役割の向上、敵基地攻撃能力、集団的自衛権の行使を認めて弾道ミサイル防衛作戦におけるミサイルの迎撃や警戒中の僚艦護衛といった分野で、自衛隊の役割と能力の向上を進めることが必要だ。

 また、これまでは日本の国内の基地をアメリカが使うばかりであったが、「同盟の強化」というならば、逆の視点も重要である。国際平和協力活動やシーレーンの安全確保等、自衛隊の国際的な活動を今後拡大させていく中で、逆に、海外の米軍基地を共同訓練や作戦拠点の一部として日本の自衛隊が使うのだ。

 たとえば米海兵隊のグアムへの移転には相当額の日本による財政支援が予想される。この際、日本の国家予算を使うのだから、機動力の向上や島嶼部を想定した防衛訓練を実現するために、グアムやサイパン等の米軍施設を自衛隊が使用し、効果的な演習を実施できるようにしていいはずだ。

 日米同盟の強化という点において、2015年4月に18年ぶりとなる日米ガイドラインの改定を実現したことは高く評価すべきだ。新ガイドラインでは、中国による海洋進出などの安全保障環境の変化を受け、日米がアジア太平洋を越えてグローバルに連携し、平時から有事まで切れ目なく対処するとともに、宇宙・サイバーといった新たな戦略的領域においても協力を拡大することが明記されている。

 これまで、自衛隊による米軍の後方支援は、「日本周辺」の範囲に限定されていたが、指針改定で日本の平和や安全に重要な影響を及ぼすようなケースと定義され、日本周辺以外で他国軍への給油などの後方支援が可能となった。また、日本が直接攻撃を受けていなくても米国などへの攻撃に対して集団的自衛権に基づいて対処できることも盛り込まれている。

 これまでの日米同盟は米軍による日本防衛が重点だったが、新ガイドラインによって、地理的な制約を設けずに共同対処や国際貢献を可能にする協力体制が築かれることとなろう。

 このように、日米同盟は極めて重要であり強化すべきである。だが、本来は、他国の軍隊が自国内に駐留している現実は異常だ。これまで述べてきたような自衛隊の能力の向上を充分に進めた上で、安全保障面で日本が米国に依存するのではなく、同盟を対等なものに近づけていき、将来的な出口戦略を見据えた準備を進めることが必要ではないか。

 今すぐに「駐留なき安保」を目指すことは現実的ではないし国益に反するが、少なくとも、在日米軍基地の自衛隊との共同利用化を促進すること、過度に負担が集中している沖縄の米軍基地の再編と返還を促進すること、HNS(Host Nation Support。いわゆる「思いやり予算」)の極小化等は不断に進めるべきである。

 50年後には、「普通の国家」として自国のことは、自国で守れる国を目指そうではないか。 


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