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Jul 05 / 2013
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財政再建の道筋を!100の行動27 財務1

初稿執筆日:2013年7月5日

第二稿執筆日:2015年6月17日

 日本の国家財政が危機的な状況にあると叫ばれてから、10年以上もの時間が経過した。今や、国および地方の長期債務残高は、2012年度末で940兆円と、GDPの196%に及んでいる。

  国民は1人あたり730万円強の借金を背負わされている計算となる(日本の総人口1億2800万人(2010年))。これは赤ん坊からお年寄りまですべて含めた人口で算出した数字であり、1世帯あたりの返済必要額を算出すれば(日本の世帯数5184万世帯(2010年))、1世帯で1800万円強の借金を返さなければならないのが今の日本の財政の現状である。

<失われた20年に変化した日本の財政構造>

 日本の財政構造は、バブル崩壊前までは健全であった。すなわち、バブル景気終盤の1990年当時、一般会計歳出は約70兆円に対して一般税収が約60兆円と、歳出のほとんどを税収で賄っており、国債は建設国債を6.7兆円発行するのみであった。しかし、ここ数年の財政を見れば、補正予算を含めた一般会計歳出は100兆円オーバーであるのに対して一般税収は約40兆円となり、国債発行額は約50兆円弱である。つまり、失われた20年を経て、日本の国家財政は、歳出を70兆円から100兆円に30兆も肥大化させる一方で、歳入を60兆円から40兆円に20兆減らし、その穴埋めの差し引き50兆円を借金に頼る財政構造に陥ってしまっているのだ。

 財政再建のために私たちがやるべきことはいたってシンプルである。この20年間で増えた30兆円の歳出を減らす方策を行うこと、同じくこの期間に減った20兆円の歳入を増やす方策を行うこと以外にないのだ。

 今の日本の財政状況が異常事態であることは誰もが分かっているはずだ。私たちは、今すぐに改革に着手しなければならない。100の行動<財務編>では、財政再建の方策を正面から提言していきたい。

社会保障費の削減に切り込め!<歳出改革>

 この20年間で、日本の一般歳出が30兆円膨らんだことは先に述べた。この要因は何か。バブル崩壊後に目立って増加した公共事業のバラマキも小泉改革から民主党政権にかけて、かなりの程度削減されてきたことを考えると、30兆円の歳出増のほとんどは、社会保障費の増大に起因するものである。

(※1990年度の社会保障費(国)は11.6兆円。2011年度の社会保障費(国)は29.3兆円。その他、国債費が1990年度14.3兆円から2011年度21.5兆円、2014年度31兆円超に増加。)

 したがって、社会保障費の削減に切り込まなければ、財政再建は不可能と言えよう。

 この点で、聖域なき構造改革の中で社会保障費の削減にも切り込み、毎年の社会保障費自然増からの2200億円の削減を行った小泉改革を私たちは評価すべきである。しかし、その自民党政権は2009年の政権交代選挙で大敗し、次に社会保障に消費増税で対策しようとした民主党政権も2012年の総選挙で惨敗した。選挙において社会保障改革は鬼門のようなもので、政治家には発言しづらさがある。

 実際に国の歳出構造を見てみると、2012年度一般会計予算92.4兆円のうち、社会保障費が31.1%の28.7兆円であり、国債の利払いと償還にあてる国債費を除く基礎的財政収支の4割強を占めている。

 急速な高齢化に伴って、社会保障給付にかかる費用は年々増加し、2009年で約110兆円となっており、このうち、社会保険料収入で賄えない差額部分を国等が負担しているわけだが、その額は毎年1兆円規模で増加しているのだ。

 繰り返そう。歳出削減の本丸は社会保障費をいかに削減するかである。しかしながら、民主党政権時の社会保障と税の一体改革においても消費増税は決めたが社会保障費の削減には大きく踏み込まなかったし、第2次安部政権も社会保障改革にはまったく手を触れられずにこれまで来ている(2015年6月現在)。

 このため、

1)給付総額53.8兆円(2012年ベース。国庫負担は基礎年金部分の2分の1で12.4兆円)にのぼる年金制度の抜本的な改革による国庫負担の抑制

2)年間37.4兆円(2010年度ベース。うち公費負担14.3兆円(国9.7兆円/地方4.6兆円))にのぼる国民医療費の削減のための仕組みの構築

3)公費負担が年間3.7兆円に達した生活保護支出を抑制する制度の構築

4)給付費7.7兆円(2011年度ベース。うち公費負担は2分の1(国と地方で折半))と年々増加している介護保険制度の給付抑制

などの改革に早急に着手することが必要だ。

 加えて、マクロ的に社会保障費の自然増を抑えるメカニズムが必要だろう。小泉政権時のように、定額のシーリングを設けて毎年の社会保障費の削減を進めることも考えられる。今後さらなる高齢化社会を向かえた場合に今の仕組みでは社会保障費の自然増で国家財政が破綻しかねないことを考えれば、社会保障費の国庫負担をGDPや税収と連動させる、社会保障費のGDPキャップ制度の導入も検討すべきだろう。

(→財務3にて詳論) 

経済再生こそが財政再建の王道!<歳入改革> 

 この20年で増えた歳出は30兆円である一方、減った歳入は20兆円であった。なぜ20兆円もの税収が無くなったのか。これは当然、バブル崩壊以降の経済の低迷によって歳入が減少していったためである。すなわち、バブル崩壊までは順調に増加していた税収が、1990年の60.1兆円をピークに減少トレンドに転じ、2013年には42.3兆円となった。2009年以降は、公債発行額が税収を上回る事態にまで悪化しているのである。

 財政再建を成功させるためには、聖域無く歳出を削減する改革と同時に、経済再生を成功させることが極めて重要だ。

 経済政策に関してはこれまでの「行動」でも、随時具体的な政策を提言してきたところである。マクロ的には人口減少やグローバル化、エネルギー環境の激変、非正規の増加といった労働市場変化など、経済社会の変化に対応した政策に転換することが必要だと考えられるが、20年で20兆円目減りした歳入を元に戻すには、とにかく国内における企業立地を増やし、流通を増やし、雇用を増やし、所得を増やすことだ。

 第2次安倍政権の経済政策によって、デフレからの脱却と景気回復の流れはかなり力強いものとなっている。加えて、企業の国内誘致のための法人税減税や雇用増、所得増にインセンティブをつける税制などを積極的に進めることが必要だ。

(→財務5にて詳論)

独立行政法人、政府調達、特別会計等の改革を進め、徹底した歳出改革を! 

 1.で述べたように、歳出改革の本丸は社会保障費の削減だが、当然それ以外の分野でも行政改革の努力を怠るべきではない。特に「構造的に無駄を生み出す仕組み」は、早急に改革することが必要だ。

 無駄を構造的に生む仕組みの第1に独立行政法人がある。101もの独法が約3兆円もの税金を使っているが、政府によるガバナンスが効かないため、無駄の排除や業務の効率化が自立的に行われず、財政規律が届かない不透明な現状がある。早急な改革が必要だ。

 次に政府調達も構造的な問題がある。約7兆円の政府調達のうち、未だに全体の約20%にあたる1兆3729億円の調達は競争性のない随意契約となっている。さらに、各省庁バラバラに調達するため、割高になっているケースも非常に多い。政府調達による支出を最小限にする仕組みの導入が不可欠である。

 最後に特別会計だ。本来、財政の健全性を確保するためには、国の歳入と歳出を一元管理するのが基本であるはずだ。しかし、行政の複雑化と肥大化に伴って、特別会計が増え、累次の改善によって17までその数は減ったものの、一般会計の倍以上の190兆円(歳出純計)という規模にまで特別会計が膨らんでいる。

 受益と負担の関係を明確化するために特別会計が存在することは合理的だが、「区分経理された特別会計」の存在そのものが、役所によるムダ遣いを生み出してしまう構造的要因になっていることが問題だ。財務省によって厳しく査定される一般会計とは異なり、最初から財源が確保されている特別会計では、役所が予算の使い切りをする構造になり、査定する財務省側も予算削減のインセンティブが生じないのだ。

 特別会計は、受益と負担の関係を明確にするための必要最小限のものに限定して整理統合を進めるとともに、役所による無駄な事業を生み出さないよう、一般会計と総合して予算の管理を行う仕組みを早急に確立することが必要だ。

(→財務4 にて詳論) 

政府に歳入増/歳出減の「しくみ」をビルトインせよ!<歳出削減のしくみの導入>

 財政改革の先進的な取り組みは全国各地の地方自治体経営の現場にヒントがある。

 千葉市の熊谷俊人市長の着実な行財政改革は派手さはないが、注目に値する。就任直後に「脱・財政危機」宣言を発表、肥大化する行政サービスに積極的にメスを入れている。既得権益化した高齢者向けの施策や補助金を圧縮する一方で職員の給与カット、機構改革を実現。「厳しい改革は選挙直後のタイミングで取り組むことが重要」と覚悟を持って取り組んでいる。

 その推進力の源泉は60年間にわたる内部出身の市長時代に築かれた政令市最悪の財政状況の実態を、若い民間出身市長が公表したことにある。「宣言」を通じて職員や市民、議会が危機感を共有する仕掛けを創り上げたのだ。その結果、就任4年で明るい兆しを見せ始めている。

 大阪の橋下徹市長が市の補助金について聖域無くカット、見直しを行い、大阪フィルハーモニーや文楽といった文化的価値のある団体への補助金も廃止や見直しに踏み込んだことを記憶している方も多いだろう。文化的価値や学術的価値を否定するつもりはまったくないが、「補助金」や「交付金」といった仕組みは、無駄遣いやフリーライドを助長する。橋下徹大阪市長が行った補助金、交付金といった制度を基本的に廃止とする考え方は評価されよう。

 こういった地方自治体経営の先進事例を参考すれば、国の財政においても、

1)現在、国や地方自治体から各種業界団体等へ交付されている助成金や補助金、大学を含めた特殊法人への運営交付金などは基本的に廃止する

2)助成が必要ならば、国や地方自治体が補助金を交付するのでなく、バウチャー制を取り入れ需要者を支援して、選ばせる

3)各種団体は、原則、独立採算制とし、それで成り立たない(選ばれない)団体は整理統合する

といった方針が必要だ。

 実は、国と地方との関係についても同様の構造が見えてくる。

 日本は国と地方の歳出の割合が4対6と税源の6対4に対し逆転しており、不均衡さがかねて指摘されている。これを補うために、地方交付税交付金として毎年約17兆円、地方消費税として5%のうち1%分の約2.6兆円が国から地方へ配分されている。このことが地方の国へのただ乗りを促している構図だ。それぞれの地方自治体が創意工夫によって歳入増、歳出減の政策競争が生まれるしくみにするために、税財源を地方自治体に移管し、税率決定などの課税自主権を地方に持たせる改革が必要だ。

 もちろん、税源移譲は、本格的な地方分権や道州制の導入とセットでなければならないが、国、地方ともに歳出増を促す現在のしくみを排除し、歳入増/歳出減のインセンティブをビルトインした制度とすることが求められる。

(→財務2にて詳論)

 財政再建に奇策はない。これまで述べてきたように、政府のやるべきことはシンプルであり、歳入を増やし、歳出を聖域なく減らすことだ。しかし、私たちに残された猶予はあまりないと考えなければならない。ギリシャやアイルランドの財政破綻等の直近の財政問題をみると分かるのは、財政危機は破綻のリスクが少しでも顕在化してくると、金融問題となってしまうことだ。そうなれば、変化の激しい市場の判断に国家財政が委ねられてしまい、市場からノーを突きつけられると、政府に出来ることは限りなく少なくなってしまう。既に外国人による国債保有比率が二ケタに近づいている。そのリスクは、皆無とは言い切れない。

 したがって、そうなる前に市場から信認を得られるような財政再建への道筋を明示し、それを堅持しなければならない。

 現在(2013年7月現在)、政府は2015年度までにプライマリーバランス(PB)を2010年度から半減、2020年度までに黒字化させることを閣議決定している。2015年度のPB半減目標は達成できる見込みだが、引き続き2020年に向けて、リーマンショックによる急激な景気停滞のような経済要因や、その他の政治的な要因に左右されずにこの目標を堅持し、実現することが政治に求められる。

 以上、100の行動財務編の最初として、この20年間で30兆円増えた歳出を減らすとともに、20兆円減ってしまった歳入を元に戻し、そのためのしくみを導入すべきこと、そしてその道筋を明確化すべきことを総論的に提言した。

 


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