自由貿易(FTA/TPP)を成長戦略と位置付け、ルール作りで主導権を握れ! 100の行動8 経産2
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初稿執筆日:2011年8月22日
第二稿執筆日:2015年2月22日
政府のTPP交渉は妥結に向けて最終局面を迎えている。農業での個別の作物に打撃を与え、日本農業を崩壊させるということが声高に指摘されてきたが、賛成意見もある。「TPPを実施すると日本の農業が強くなる。日本の農業の競争力向上のためにも、TPPは、必要である」と千葉で農業に従事している農事組合法人和郷園代表理事の木内博一氏は、2011年のあすか会議で宣言した。
そもそもTPPは「農業」だけの問題に矮小化してとらえるべきではない。貿易の自由化によりヒト・モノ・カネの移動を活発にし、製造業、輸出産業を中心に経済を活性化し、国全体の産業効率を向上させることを目的としている。そもそも我が国のTPPへの参加の検討は、民主党政権時代に始まり、現在の自民党政権に至ってもその路線は堅持されていることを考えれば、与野党を超えて必要性は強く認識されているといえる。「守るべきものは守る」ことは当然のことだが、政治家特有の事情と配慮によりいつまでも交渉を長引かせているわけにはいかない。
人口減少社会(少子高齢化)の到来により、今後日本経済は低成長あるいは縮小を余儀なくされ、世界における相対的地位も中長期的に低下する。1990 年台初頭に、世界の20%近くを占めた日本経済が、2011年度には10%を割り込み、2020年ごろには5%程度になることが予想されている。このような状況に歯止めをかけるには、日本を世界に対して開き、日本経済にグローバル経済の活力を積極的に取り込み、国内産業の活性化と国際競争力の強化を促すことが不可欠である。特に、アジア太平洋をはじめとする各国・地域との自由貿易協定を戦略的に締結することは喫緊の課題だ。
FTA/TPPを成長戦略と位置付け、ルール作りで主導権を握れ!
WTOドーハラウンドは2001年の交渉開始以来、2014年にようやく貿易円滑化協定を結ぶに至り、交渉を加速させることで一致を見たものの、先行きは全く不透明だ。その結果、主要貿易国間ではFTA締結の動きを加速させている。わが国はWTOとのパートナーシップを維持しつつも、より具体的に自由経済による資源最適化の実を得るために、FTAを用いた東アジア圏、TPPを用いた環太平洋圏での通商政策のグランドデザインを示す必要がある。しかしながら、日本は国内農業問題や規制改革問題などの障害を依然として乗り越えられないことから、FTAの交渉・締結の動きは遅滞を余儀なくされている。
例えば、2013年3月に外務省経済局が発表した資料によると、日本のFTAの締結数は13件、FTA比率(FTA相手国との貿易額が貿易総額に占める割合)は18.7%の低水準 である。一方、EUは28件で77.6%(EU域内貿易を含む)、米国は14件で38.3%、韓国は10件で35.2%、豪州は6件で24.9%、インドは16件で21.6%、中国9件で19.4%であり、日本のFTA比率 は非常に低水準である。
特に、日本のライバルである韓国との取り組みの差異が、日本の競争力を脅かしている。インドと韓国のFTAが発効した後に、韓国からの輸入が50% も上昇した。今後は、EUさらには米国との貿易にも韓国が優位に取り進めることが予想される。
自由貿易における政策的対応の遅れの結果、日本が諸外国から大きく後れをとり、世界経済の成長と繁栄から取り残されることになりかねない。FTA/TPPを成長戦略と位置付け、諸外国との交渉における貿易・投資の自由化のルール作りのプロセスでイニシアティブを発揮しなくては意味がない。これまで交渉上の大きな障害となっていた、農業問題、人の移動の問題、諸規制・非関税障壁問題などの国内制度改革を一体的に推進し、国内の環境整備を図る必要がある。
農業構造改革を断行し、競争力ある農業をつくれ!
日本の農業は、農業従事者の高齢化(平均年齢は約65歳)や後継者難などの深刻な問題に直面しており、今後の持続可能性が危ぶまれているのが実態である。次に述べる抜本的な構造改革や経営者の育成により、農業競争力の強化と産業化を図ることが求められる。
安倍政権が、これまで聖域とされてきた農協改革に一歩踏み出したことは評価をするが、準組合員の利用制限の先送りなど、地域農協全体の8割において農業関連事業の赤字を金融等で賄っている、本来の事業がなおざりになっている現状にメスを入れ切れていない。「行動45農水省編」では本格的な農協分割を提言し、ここではTPPの議論の中で最も懸念が指摘されている農業を競争力ある産業にするための施策について指摘したい。
1)農業経営者の育成
農業を産業として捉えて、農産物の選定、農作業の効率化、販路開拓、ブランド管理、輸出などを戦略的、体系的に行える人材を育成する。
2)農地集約化による経営規模の拡大と生産性の向上
農地法改正による定期借地権制度と基本台帳の法制化などにより、規模の経済が働かせられる体制を創る。農地中間管理機構を機能させ適切な集約を行う。
3)株式会社の参入規制撤廃・緩和などによる法人営農の推進、流通改革を
農業生産法人の認定要件の緩和などにより株式会社の参入を容易にすると共に、上場への道を開き、資本が農業生産株式会社に流れる仕組みを創る。農協には独占禁止法を適用し農業流通分野での新規参入も同時に促す。
4)販路の拡大やブランドの確立
インターネットなどの活用、海外を含めて生産者と消費者を直接結びつける仕組み作り、ブランディングや加工によって農産物の付加価値を高める。
5)生産技術の海外への輸出、海外進出
近隣諸国への農産物の輸出拡大はさることながら、海外における農産物の生産技術の海外輸出、進出も視野に入れる。宮城県山元町でIT技術を駆使したイチゴ栽培を行っている農業ベンチャーGRAは、関税撤廃は日本農業が世界に進出するチャンスととらえ、南インドに生産プラントを建設し、日本の技術を使った栽培を始め、海外市場に展開しつつある。
冒頭の木内氏の言葉ではないが、TPPをきっかけにして日本の農業を内向きに守るのではなく、更に強くする姿勢で臨むことが強く求められている。
日本への人材の流入の促進を!
シリコンバレーの過半数の起業は、中国人、インド人、東欧出身者によって行われている。アメリカのバイタリティの源泉は、海外からの人の流入なのだ。日本も同様に、世界各国から優秀な人材を集める必要がある。スタートアップ都市づくりを推進する福岡市は国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の一環として外国人材の受け入れを他都市に先行して行おうとしている。
ASEAN諸国からの看護師・介護福祉士候補者などの受け入れにおいてすら、問題があるのが実情だ。滞在期間の延長、日本語予備教育の実施などへの制度の改善要求に対しては、日本の将来の人口構造や、関係業界の雇用状況・人員確保の実態なども踏まえながら、前向きに検討することが求められる。また留学や教育との戦略的な連携を進めること、就労ビザ発行の簡易化などを通じたグリーンカード制度を創設することも視野に入れる必要があるだろう。詳細は「行動80 法務省編」で新渡来人計画として述べる。
現在の製造業の成長と日本経済のボトルネックとして労働力不足を指摘する声は大きい。そのためには女性や高齢者などの潜在労働力を引き出しつつ、優秀な海外の人材には、積極的に日本に入ってきてもらうことが重要だ。
自由貿易を促進する規制緩和の推進と補完する制度の基盤整備を
規制により保護されている産業は衰退し、規制が撤廃された自由競争の産業は、鍛えられて世界でも戦えるようになる。これが、マイケル・ポーター教授が唱えた「国の競争優位の源泉」の考え方だ。日本の製薬、化学、金融は、保護主義政策のために世界的に戦えなかった。一方、自動車、電気電子、商社などは一切の規制がない。従い、強くなった。
保護主義政策は、産業を衰退させるのだ。産業を強くするには、規制を撤廃し、競争を促進させ、新たな参入を呼び込み、徹底的に戦わせ、新陳代謝を促すしか方法はないのだ。そのためには、政府の規制改革会議が司令塔になり徹底的な規制緩和を行うことが重要だ。
一方、貿易・投資の自由化における課題は多岐にわたるため、FTA/TPPの締結だけでは不十分であり、いくつかの課題についてはEPA交渉を活用した基盤整備を図ることが求められる。投資に関しては投資協定の拡充・租税条約の拡充・社会保障協定の締結促進などの法的整備が求められる。さらには知的財産が我が国の強みであることから、知財権の確保ならびに模倣品・海賊版対策に関する国際ルール・連携の拡充などが必要である。(行動12経済産業省編に詳述する)
政治の強いリーダーシップの発揮を!
諸外国との自由貿易交渉の推進には、国内の様々な既得権益者との利害調整を含めた国内制度改革の断行が必要不可欠であり、その際には、政治の強いリーダー シップが求められる。したがって、政府・与党の一体化による政策運営体制を強化することのみならず、なぜ経済連携が国家戦略上の重要課題なのか、総理大臣や担当大臣が国民に対して十分に説明し、国民の理解と支持を得ることが重要である。
TPPやFTAの交渉を契機に、過保護のために弱めてしまった日本の産業を強くするとともに、日本企業が世界においてイコール・フッティングで戦える環境を創る必要がある。そうしなければ、日本の産業は衰退していくのみだ。ここでも、政治の強いリーダーシップが求められている。
FTA/TPPは、日本の成長戦略として位置付けるべく重要な施策である。安倍政権のもとTPPが進展しつつある。とても望ましいことだ。これを機会に農業を成長産業として位置付けて、積極的に海外に打って出て欲しい。
2011年11月4日に“トコトン議論2”と題して、田原総一朗氏や池田信夫氏らを招いてTPPに関して徹底的にとことん議論した。今後とも大いに議論して、世界に向けて日本を開き、成長し続けることが重要だと思う。
http://blog.globis.co.jp/hori/2011/11/20111121-vol-24.html
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